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孤高にして影の王  作者: mikaina
2章
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熟練ぼっちは十変千貨する

 


  あるゲームセンターに赤い髪にタキシードという奇抜な格好をした男の姿があった。



  その男、田尾(たお) 須鳥(すどり)は「ゲームセンター荒らし」として有名な男だった。



  種目は主にコインゲーム。道楽としてクレーンや音もプレイするが彼の主戦場はコインゲームだった。


  須鳥はゲームセンター界隈では非常に名の通った男だ。プレイヤーからは勿論、店員にも「その男要警戒」と指令が下されるほど。


  須鳥を一躍有名にした要因は何かと言えば「十億の奇跡」だろう。


  二分の一の確率で当たりメダルが増量するゲームで、須鳥は拾った一枚のコインから三十回連続で当ててみせた。


 その確率およそ十億分の一。


 それを見ていた店員、ひいてはコインゲーマーは慄いた、そして確信した。この男はいずれ天下を取ると。


  そこから「エキドナの蛇事件」「量子の海と紫煙解放」「千一四八の悲劇」等を通して成長し、更に名を広めてきた。


 この日は自身の支配エリアから少し遠出し、自エリアと化していないこのゲームセンターまで訪れた。


  須鳥が店内を闊歩すると、辺りに騒めきが広がる。


 それは勿論、須鳥が起こしたものだ。


「おい、赤い髪にタキシード、それに右腕のチェーン。あいつ、十億の須鳥じゃないか?」


「完全に特徴が一致してるな……あれがゲームセンター界を賑わせている新星か……」


「店長に報告しろ! ……エキドナの須鳥が来たとな」


  須鳥はそれを気にも留めず、このゲームセンターを品定めする。


  まず、大きさは中の下、品揃えこれも中の下、雰囲気は中の上、店員は上の下で割りかし良店員揃いと。



 総評、悪くない店だ。



 須鳥はこの店をそう判断する。


  大きさは評価項目に該当するが評価割合はそう高くない。これまた品揃えもそう高くない。第一判断で最も割合が高くなるのは店の雰囲気と店員についてだ。


 落ち着きと興奮の入り混じるゲームセンターらしい雰囲気に慣れた様子でテキパキ働く店員。その二つが揃っていれば他のものなど些細ごとに過ぎない。それが須鳥の持論であった。


  手始めにクレーンで肩慣らしを始めよう。


 須鳥がクレーンゲームエリアへと移動した時、横を男が通り抜けた。


 須鳥の横を通りすぎた風の如き男。その男を、正確にはその男の左腕を見て須鳥は口角を上げた。


「こんな場所にいるとはなぁ、『死者人』」


  クレーンなんてやめだ、今日はアイツを狩る。


 須鳥はそう意気込んで左腕に包帯を巻いた黒髪の男の後を追った。



「ここは……」


  男の後を追い辿り着いた先は、運が多分に作用するダービーエリア。


  ダービーとは簡単に言えば競馬。馬を競わせる競技のことだ。


「正気か……?」


  男は、『死者人』は、先程より心なしか楽しそうに席へ着いた。そうして八番と書かれた馬に標準を合わせるとメダルを一枚、投入口へと投入した。数十秒後、競走馬の競走馬による競走が始まった。


 このダービーメダルゲームは、一六馬の競走馬を競わせ、一等を当てるゲームだ。本来のダービーの単勝のみバージョンという説明が最も伝わりやすいかもしれない。単勝、つまりは一匹掛け。一等になる競走馬を予想するということ。


  そしてこのゲームには現実のように優れた騎手など存在しない。さらに言えば馬の調子なども関係しない。全ては機械の思うまま。つまりは現実のダービーよりも運が絡む、運が全てと言っても良いかもしれない。


「……当たれ、当たれ」


  男はボソボソと小さな声で呟いた。


 その声は音が微かに鼓膜を揺らすばかりで内容は耳に届かない。


  こいつは本当に『死者人』なのか? 須鳥の脳裏にそんな疑問が浮かぶ。噂通りの背格好をしている事は間違いない。左腕の包帯に黒髪、中肉中背の男。そこは相違ない。だが年齢は二十半ばという話だった筈だ。


「四枚も賭けたんだからな……」


  目の前の男はどう見ても十代、若輩でしかない。


  それに、だ。『死者人』がダービーをしたなどという話を聞いたことがない。


  『死者人』はプッシャーゲーム、所謂メダル落としを得意とし、メダル落としで名を上げてきた男だ。メダル落としと言えば『死者人』、『死者人』と言えばメダル落としと対比関係が成立し、皆がそう連想する程に、『死者人』はメダル落としのみを極めた人間なのだ。


  それがダービー? しかも噂よりもずっと若い? はっ、どんな冗談だ。さっきまでの俺はどうかしていたぜ。


「ふぅ」


  一呼吸。


  別人と見切りをつけて須鳥が男に背を向けた時、チャリンチャリンチャリンと独特な金属音が須鳥の耳を挑発するが如く震わせた。


「……マジか……三十二枚になったよ、スゲェ」


  おいおい、冗談だろ……? オッズ8倍、人気じゃ十二番目の馬に賭けて初手当てだと……!


  一流メダルゲーマーは良プレイに呼応し、それを挑発と受け取った。


 イイぜ、買ってやるよ、その挑発。


 お前が『死者人』だろうとなかろうと、売られた喧嘩を買わないのはメダルゲーマーの名が廃る。


「乗るぜ」


「……?」


  そこに来てやっと須鳥は一言断りを入れ、席へと着いた。男の向かいの席へと。


「『エキドナの須鳥』が少年の前に着いたぞ……? どういう事だ」


「いやよく見ろ、左腕の包帯……『死者人』だ、アレは!」


「嘘だろ! まずくないか!? そんな大物と新星がぶつかったらこのゲームセンターのコインが消失するぞ!?」


「ダービーでワンオアワン、正気なの!?」


「店長! しっかりして下さい、店長!!」


「お終いだ、この店は今日でお終いだぁぁ……!」


  席へと着いた須鳥の耳に目の前のゲームの音以外の雑踏は入らない。


  須鳥は集中力のずば抜けた男だった。


  すると決めればいつのまにか一日が終わることなどざらにある程。


  そんな須鳥は目の前の男と競走馬を見極める。


  目の前の『死者人』らしき男、まずコイツだ。馬には重きを置かず、この一戦でコイツを見極める。




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