中二病ぼっちは夜に舞う2
影春学園中等部二年――単衣 夜宵はその日、日課を行うためにいつも通りの時間に家を出た。
「今宵も良い月明かり」
空を見上げて小さな声で呟き自作のマントを風にたなびかせ歩みを進める。
目的の場所に一刻も早く辿り着きたくて次第に気持ちと身体が前のめりになっていく。家を出て一分もしない頃には駆け出し始めていた。
それはまだ中学二年生だからか、夜宵がスポーツを得意としていないからかお世辞にも速いとは言えなかった。
「ふー、ふぅ、はぁぁぁ」
疲れて一度立ち止まり深呼吸し呼吸を整える。そしてまた走り出す。
走って、疲れて、止まって、また走る。
一見すると無駄な行為かも知れない。だがそれほど彼女はその場所へ行くことを心待ちにしていた。
走って走って無理をして走って走って走って走って走って走って。
「あとちょっと……!」
疲れた足に無理をさせ加速した。ゼーゼーと切れる息。無理をし過ぎたせいか痛む喉。それらを誤魔化すためにゴクリと不快な血の味が混じる唾を飲み込んだ。
そして、
「……はぁ、はぁ、や……やっと、ふぅ、はー、つ、着いた……!」
夜宵は小さな公園に一歩足を踏み入れた。
彼女、夜宵は非常に内気な性格だった。
勉強は出来るが内気故にクラスにも馴染めず、周りから少し浮いた存在。教師からも扱い辛く、絡み辛い。それが夜宵だった。
夜宵は別に周りの評価を気にしていなかった。こんなものだと見切りをつけていたから。
そんな彼女は今より半年程前、中学一年の三学期、ある転換期を迎える。
その日も一人、本を読んでいた。
それはいつもと変わらない、代わり映えのしない景色。視界の大半を白い紙に書かれた黒のインクが占め、夜宵の邪魔をしないよう視界の端に周りの景色が僅かばかり映っていた。
読んでいた本は、何というタイトルだったか。どんなジャンルだったか。
家にあった適当な本を持ってきたからか、その後に起こった事のせいか、もう忘れてしまった。
「昨日の『星降り』見た?」
「見た! まさかあのアルデバランが――」
「いやそれもそうだけどベラトリックスの――」
他愛もない話だった。あるクラスメイトたちがその話題で楽しそうに盛り上がっていて、でも夜宵は蚊帳の外。いつも通りの事だった。
『星降り』
多分ドラマなのだろうと思った。なかなか良いタイトルだと思った。もし小説があるのなら読んでみたい。
そう思ってポケットからスマートフォンを手に取ってリズミカルに文字を入力していく。
ほ、し、ふ、り。っと。
そう打ちこみ、虫眼鏡のマークをタップすると一瞬にも満たない時間、ネットの海を彷徨い、抽出された情報が画面一杯、夜宵の視界いっぱいに広がった。
「うわー……」
周りにはクラスメイトが居たはずなのに夜宵の視界と思考には一切映らず、自分があげた声を他人が出した声のように聞いていた。
そこに広がっていたのは予想とは全く異なる世界。
夜宵は一瞬でその世界に魅了された。
調べて知る。人気漫画が原作のTVアニメーションだと。
『星降り』
異能を持った学生による能力バトルもの。『星降り』は略称であり、『星降りてセレーネルーナ』が正式名称。
普通の学生だった主人公、星野 夜空が趣味の天体観測をしていたとき、星が主人公、夜空目掛け降り落ちる。その影響で〈星落とし〉という異能を手に入れた夜空が世界の命運を懸ける争いに巻き込まれるという王道ストーリー。
その時の夜宵は魅了されてはいても、まだそれに自分が深く深く途方もない程に深く、自身の性格すらも変えうるほどに深く、のめり込むなんて想像もしていなかった。
夜宵はその日、珍しく急いで家に帰った。「おかえり」と言ってきた母へ乱雑に言葉を返し、自分の部屋のドアを開き、急ぎ鞄を放り投げる。
「いってきまーす!」
何処へ行くの? と問いかける母に帰ってきた時と同じように乱雑にされど、目的の場所を答え、あまり使う機会のない赤の自転車に跨がった。
最初はゆっくりだったのに気持ちが焦りだんだんと漕ぐペースは上がっていく。
遅い遅い遅い遅い遅い遅い。
足りない足りない足りない足りない足りない。
足がパンパンになってもまだスピードを上げ続けた。吐く息は白く、転がるタイヤはけたたましい。
目的地を視界に収め、ブレーキをかけるとタイヤが悲鳴をあげてスピードを落としていった。
新作出すから良かったら見てね
ちなみにギャグだよ




