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孤高にして影の王  作者: mikaina
2章
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ぼっちは恐怖する

 


 その日はひどく疲れていた。精神的にも肉体的にも。


 まぁ、大層なことを言ってはいるが単に寝不足だ。夜遅くまでゲームをしていたせいで眠くて眠くて仕方ない。


 教師の声を子守唄にして俺は静かに机に伏した。


 一度下がった瞼は俺から肉体の支配権を奪い取る。おやすみ、誰かの声を聞きながら俺は眠気に負けた。



「んぅ……」


  金と橙が混ざった光の眩しさに俺は目を覚ます。


  ここ何処だよ。教室。


 俺誰だよ。黒瀬・ノワールイル・シャドウリカ・影莉。


 今何時だよ。お日様の角度から見て午後の四時ちょい前。


 ふんふん。四時ちょい前ね。


 ……。


 いや、おかしいだろ。見間違えか? 陽の角度なんて曖昧だからな。大人しく時計を見るとするか。


 寝そべったままポケットからスマートフォンを取り出しまして電源ボタンを押します。すると数字が現れます。


 あら不思議、16:27。


  な、四時ちょい前じゃないだろ。なんともう四時過ぎなんだよなぁ! 残念!


  ……え? マジ? なになに、どう言う事。俺が寝たのって二時間目じゃなかったっけ。いやいや、いくらなんでもおかしくない?


 ひっひっふー。


  落ち着いて深呼吸をした。……深呼吸では無かったかもしれないがそれは些細ごとだろう。


 いや時間はまだ良いとしよう。それよりも問題は、今日弁当だって事だよ。どうしよう。寝てて食ってないのがバレたら当分弁当作ってもらえないぞ。


 ここで我が家の弁当形式を教えよう。


 基本的に我が家では妹と母が俺の弁当を作ってくれている。たまに彼女達の気分次第で作ってくれず、購買に変わることもあるがそれは置いておこう。


 ともかく弁当はとても美味でそれはひたすらに感謝しかないのだが、少し厳しいところがあってだな。


 作ってもらうからにはお残し厳禁なのだ。


 そしてそれは家への持ち帰りにも適用される。


 何故ならば家へ持ち帰り食うならば、弁当の意味がないからだ。家で作って食べれば済む話。それをわざわざ早起きさせ弁当を作らせるとは何事じゃー、という事だ。


  そんな掟があるので、家で食うわけにはいかんし、公園やそこらの外で食うのはぼっちの俺には難度が高い。


  ならばここ、この場所、教室で――。



「ってかさー、麻里麻里バイトの時間大丈夫なの?」


  いや誰かおるゥゥーー!!


  完全に誰もいないと思っていたので心臓のばくばくが止まらない。もう四時半だよ? なんでいるの? 授業終わって一時間以上経つよ?


  君達がいると俺が弁当食えないじゃん。


「ん? まだ大丈夫」


  ……ん?


  でもよくよく考えれば悪いことをしているわけではないよな。


  起きにくい状態ではあるが、今起きずにタイミングを逃すのもアレだ。よし、勇気を出して――。


「で、最近ハッシーの好きな人とはどうなん?」


  ハイ、起きれませんねぇ! これは起きれませんねぇ!


  恋愛話の最中は難易度高いよぉ。


  もう、こんな場所で恋愛話してるなよ、人が寝てるんだぞ、起きたら聞かれちゃうんだからさ。もう少し場所を考えようよ。


「えっと、あんまり進んでないんだけど…………今更だけど大丈夫かな」


  そこまで言って俺の後頭部をハッシーは見る。なぜ分かるかと言うと視線を感じたからだ。ぼっちは視線に敏感だからな。


  うんうん、よく気付いた、ハッシー。そうだ、場所を変えよう。人気の無い路地裏とかどうだろうか、もしくは公園のベンチ。とりあえずここは最も恋愛相談に適していない場所だ。なんたって彼女どころか、友達すらいない俺がいる場所なんだから。


  早くここから去れ。


「……大丈夫じゃない? 物音一つ立てないし寝てるって」


  誰だテメー! 余計なこと言うんじゃねーよ! ハッシーの言うこと大人しく聞いてろや。ハッシー先輩の言うことは絶対なんだぞ、おら。


  ……てかこの女の声聞き覚えがあんな。


「それに黒瀬が起きたってどうでも良いよ」


  お前か!


  俺に対し謎の敵意を抱いている女など独りしかいない。他の人は俺のことなんて敵意どころか認識すらしてくれないからね。


  その女は獣飼(じゅうかい)麻里亜(まりあ)。莉佐を弄っていた首謀者だ。今考えても許せねー、あの俺の名前を呼んでくれる唯一の同級生、大天使リサエルを苛めるなんて。


  まぁ、何故か最近は莉佐にちょっかいを出すのをやめて大人しくして……というか莉佐が近く通るだけでビクビクしてるんだけど……。


「うーん、起こしちゃったら悪いような……」


  天使! 莉佐に続く天使現る。お前らどけどけ大天使ハッシーエルの降臨だぞ。


  俺、家族以外に気を使われたの久しぶりだぁ……。涙が出そう……。


  それに比べて、


「はっ、アイツなんかどうでもよくない?」


  コイツは可愛げのないやっちゃ。


  獣飼には莉佐とハッシーの爪の垢を煎じて三十杯ぐらい飲ませたい。流石のコイツでもそれだけ飲めば俺に対して優しくしてくれるだろう。


  ちなみにこの俺への扱いの差を見れば、その者の人間性を知ることができる。


  ハッシーや莉佐はゴミの俺に対しても優しく接してくれる天使。


 獣飼はゴミに対しゴミのように扱う常識人。


 俺を認識すらしてくれない人は片付けの苦手な一般人。


 こういう風に人間性を分けることができる。


 ちなみにこの学園の会長である羽独さんは万物皆、ゴミにも対等な慈悲深き女神だ。


「で? どんなアプローチしてんの?」


  ……ホントにどんだけ俺を嫌いなの? 獣飼さん。移動してくれよ。ナチュラルに会話を続けないでくれよ。


  はぁ……。


  退く様子のない彼女達に俺は諦めて彼女達が帰るまで狸寝入りをすることに決めた。さっきバイトがどうって言っていたからそう長くは話さないだろう。




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