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孤高にして影の王  作者: mikaina
2章
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熟練ぼっちはやはり独り2

 


「では次に――」


  うおおおおおおおおおおお! 頼むやめてくれぇぇぇ!!


  教室中を隈なく見渡す先生が大きな鎌を持つ死を司る死神に見える。俺は孤独を司るぼっちですよ。司る者同士、仲間なんで殺さないでください。


  死神は俺の方を一瞥し、そして微笑んだ。

 

  えっ? やめてよ。


「一井さん、林さんの続きからお願いします」


  自分が当たらなかった事にほっ、と息を吐く。しかし安心感もつかの間、俺は隣の女子、一井(いちい)莉佐(りさ)を横目に見た。


  一井莉佐は、俺の隣の席の女の子だ。


 莉佐には俺とある『共通点がある』。



  それは――ぼっちだという事だ。



 独りでいる事が間接的な原因を作りクラスの女子に目を付けられ、からかわれていた時もあった。今は止んでいるが。


  そんな彼女はぼっちらしく、俺同様、こういった発表を苦手としている。このクラスになって何度か彼女が発表する機会があったが、どれを取っても彼女は声を震わせ言葉に詰まり、ギリギリの形で発表を終わらせてきた。


  そんな彼女が少し心配になる。ぶっちゃけ俺の方が重症っちゃ重症だから他人の心配をしている暇はないのだが。


 俺と彼女に深い関わりがあるわけではなく、彼女とはまともに会話すらした事はない。


 だが心配なのだ。



 ぼっちはぼっちを嫌わない。



 同族嫌悪するぼっちは二流もいいところ。一流のスポーツマンがお互いの研鑽を讃え合うように一流のぼっちもぼっちを讃えるのだ。君も独りなの? すごいね、辛いのに。僕も独りなんだ。すごいでしょ。……慰めあっているだけじゃね?


 それに彼女は俺にとって重要な人物なのだ。


 何故ならば、彼女、一井莉佐は俺を名前で呼んでくれる、稀有な人物なのだ。「黒瀬くん」と呼ばれた時のことを寝る前に思い出してニヤケちゃう俺にとってはもう天使みたいなもの。大天使リサエルと崇めたいぐらい。そんな彼女を心配するのは当然なのだ。まぁ名前で呼ばれたことは一回しかないんですけど。


  ガタッ、と莉佐が椅子を引いて立ち上がった。


  大丈夫か? もし無理そうだったら何とかして俺が時間を稼ぐしかない。俺の奥義、「せんせーい、トイレ行っても良いですか」を使うときがくるかもしれん。


  そんな俺の心配を余所に彼女は、


「はい」


  堂々と返事をし、音読を始めた。


  おいおい、嘘だろ。思わず目を見開いてしまう。


 そう思ったのは俺だけではなかったらしい。


 つい最近まで莉佐をいじっていた女子運動部のグループの獣飼麻里亜も驚愕の表情を浮かべていた。そんな獣飼だったが俺と目が合った瞬間、何かを思いだしたかの様に顔を恐怖へと一変させ、前を向いた。


  いや待て、やめてくれ。流石に傷つくから。俺と目があって恐怖とか意味分かんないから。「アイツこっち見てた気持ち悪すぎる!」みたいな。最低じゃねーか。


  そんな俺って気持ち悪いかなぁ――大丈夫影莉はいつでもイケメンだよ。と自問自答して自分自身を励まし、慰めていたらいつのまにか莉佐の発表が終わっていた。


「ありがとうございました。では次に――」


  まぁ、隣の席の莉佐が指されたのなら俺は来ないだろ。


  いやぁ、莉佐の発表凄かったな。心の中で密かに讃えておく。


  さっきの発言を訂正しよう。彼女、莉佐には俺と共通点があるといったが少し訂正させてくれ。


  正しくは、『共通点があった』だ。


  彼女はつい最近までぼっちだった。だったのだ。


  いつからかはわからないが彼女はぼっちを卒業した。それはもうインスタントな塩ラーメンのようにあっさりと。


 完璧超人たる生徒会長、羽独紫音と彼女はいつのまにか親しくなっていた。俺何かと一緒にぼっちと一括りに出来ない。


  悲しいね、やっぱり真のぼっちは俺独りなのか。


「黒瀬くん、お願いします」


  ざっっけんなよ、オラッ! 今悩んでんだろうが!


  教師はホント融通っつうか、なんかもうダメだわ! ダメなのだわ!


  悲しんだり激昂したり俺は情緒不安定かな?


  思考では文句を垂れつつも真のぼっちたる俺の行動は迅速だ。俺は無意識に椅子を下げ立ち上がる。

 

 ここで立ち上がりもせず、ただ座っているだけならば教師、クラスメイトの双方から反感を買うだろう。それはぼっち界隈では死を意味する。教師への反抗に意味はない。教師はいわばこの空間の支配者なのだから。司る者同士でも相性が悪い。「残念でしたね、ここは私の領域。貴方の孤独は死神の私には通じませんよ」と目で訴えかけているのがわかるわかる。教師は常に強者ポジ、忘れてはいけない。



 ぼっちは賢いのだ。


  それでも抵抗することをやめない。立ち上がるまでの時間、必死に頭を回転させる。


  どうする、どうすればいい? 俺が発表せずに済むにはどうすれば、トイレに、いや体調不良で――。


  そこでタイムアップ。完全に膝が伸びきった。これ以上の延長は不可能。発表は不可避。


  時計を見た。残り二分。諦めよう。


  神様はやっぱりいないのかよ。


「では、一井さんの次の行から」


  キンコンカン☆コーンッ! キラッ☆


  死神の鎌が俺の首を切り落とす直前、教室にチャイムの音が鳴り響く。それは俺を救う生命の鐘。


「あら、おかしいですね。時計では」


「せんせーい。その時計少しずれてまーす」


「そうでしたか。では終わりにしましょう――っとその前にこれ次の授業までに終わらせておいてください」


  先生はプリントを取り出しそれを配っていく。


  ファサッと俺の机にプリントが舞った。


「号令お願いします」


「起立。気をつけ。礼」


  ありがとうございました。クラスメイトがバラバラと解散していく。


  そんな中で俺だけが不動だった。かっこよくいっているが置いてけぼりだった。


  嬉しい。嬉しいよ、発表しないで済んだのは嬉しい。だけどこう…………なんだかなー。


 ……あのー、俺、立ちっぱなしだったんですけど、先生ぇー。俺のこと嫌い?





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