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孤高にして影の王  作者: mikaina
2章
36/72

熟練ぼっちはやはり独り


頑張るぞい!

 


 人が虫を追い払うようにあっさりと希望を滅ぼし絶望が訪れるのはいつも突然だ。


  ああ、残酷だ。俺が何をしたと言うのだろうか。

 

  無宗派である俺は神を敬った事など多分ない。ただ神を信じていないわけでもない。神はいるのかもしれない。


  もしもいるのなら神よ、何度だって祈ろう。絶望を滅ぼしてくれるなら。俺の中にしんしんと雪のように降り積もる絶望を溶かしてくれるなら、何度だって。

 だから頼む。頼むよ。

 頼むから――。


「じゃあ、ここを林さん、読んでくれますか」


  どらっしゃぁーいぃ!! どらびじゃねいがらふぃっしゃー!! サンキュー、神! さすが神! この調子で頼みます。


  現文の授業中、何とか先公からの指名を躱した俺は心の中で試合に勝利したスポーツ選手さながらにガッツポーズをとった。

 

  季節は六月。空気がジメッとし雨がよく降る梅雨の到来だ。


  ほんの少し前は夏が近付いて来たと思わせる熱さを放っていた太陽は姿を現わすのを躊躇う有様。


  そんな中で行われる授業に皆少し力が抜けている。


  勿論それは俺も例外ではなく、机の上に広げられたノートには様々な落書きが施されていた。


  空気がジメッとしてるとさ、いつもはポカポカであったかい陽気な俺でもこの空気みたくジトーッと陰湿な空気になっちゃうわけよ。……何だ、何か間違ったこと言ったか? 影莉よくわかんなーい。


  くだらないことを考えながら教室の壁に飾られた時計で今現在の時刻を確認する。


  授業終了まであと八分。耐えきれるだろうか。


  耐えるというのは先生からの指名をだ。


 林さんの音読はそろそろ終わってしまう。それでもあと一分は持つと考えて残りは七分。指されるとしても多くて三人。少なければ二人。俺はこの音読という最悪のオーダーから逃れる事が可能なのだろうか。



 ぼっちは洞察力が鋭い。



  洞察力の鋭いぼっちの俺が観察した所、教師の指名にはある程度、癖や特徴、つまり個性が表れる。


  例えば完全ランダム制だったり、日付けによって決められたり、他にも教師がお気に入りの生徒を当ててその指名された生徒が次の生徒を指名したりなんてものもある。


  とりあえず色々あるのだが結局の所多少の偏りはあれど、授業で一度も発表しない学生などこの影春学園ではあり得ない。

 

  それに関しては仕方ない。本当は嫌だ、死のっかなって考えるぐらいには嫌だ。保健室やトイレに逃げ込みたくなる。だがそれはどうにもならない。だから認めよう、認めてやろう仕方なく。


  仕方ない、仕方ない。が、音読だけは指されてはいけない。指名されたくない。名を呼ばれたらいけない。


  それはぼっちで生きる者ならば、きっと誰もがそう考える。ぼっちじゃなく、人前で話すことを苦手とする者ならば考えることだろう。


  音読とか考えたやつ誰だよ。自分で読めるだろうよ。


 読めない漢字があったら辞書引け。辞書を引く練習にもなるだろ。わざわざ声に出す必要ある? 小説の音読とか読み聞かせと変わんねーだろ。


「はーい、皆さん集まってくださーい! 今から読み聞かせを始めますよー、今日の絵本は山月記です! 虎さんになった男の子とそれでも友達で居続ける心優しい男の子のお話でーす!」的な。


  そんなことを思っていると現文の先生の声が聞こえた。


「はい、そこまでで良いですよ」


  クソッ、林さんの音読が終わってしまった。でもありがとう、林さん。林さんの丁寧でゆったりとした音読は俺の予想を一分半も上回ってくれた。サンキュー林さん。


 --残り五分半。





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