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孤高にして影の王  作者: mikaina
1章
33/72

ぼっちは遂に邂逅する5

 

  だから違う話をしよう。


「黒瀬くんについて教えてくれませんか」


  彼について知りたかった。なんで僕を救ってくれたのか。彼は他に何をしてきたのか。


  彼が『一人』で僕のような少し変わった困っている人を救うと言うのなら、僕がそれを出来る限り下から支えられるように。


「……構わない。それは私の役目でもあるから……」


  さっきの不機嫌な雰囲気はどこへ行ったのやら、会長はぎこちなく優しく微笑んで言った。


「役目、ですか?」


「……こっちの話。教えるのは構わないけど今日はおしまい。もうチャイムが鳴る……」


  生徒会長が言うと同時にチャイムが鳴り響いた。それは完全下校の時間を示すチャイム。窓から差していた金色に輝く夕日はもう既に落ちていた。


「えっ! もうそんな時間!?︎ 鍵も返してないのに」


「私がいればとりあえずは平気、安心していい……。鍵も私が返しておく……」


「……いいんですか?」


「今日は気分が最高。その程度なんでもない……ふへっ」


  何かいいことでもあったんだろうか。目の前にいる僕を無視してまたトリップし始めてる。


「会長! 会ちょーう!」


「ふへふへ、ふへへ、影莉く……はっ! 早く行く……」


  切り替えの早さがすごいなぁ。


「はい、行きましょうか」



  生徒会長と横に並んで廊下を歩く際、やっぱりなんで倒れていたのかが、気になって冗談交じりに聞いてみた。


「生徒会長が倒れてたのって黒瀬くんが原因だったりして……なーんて流石にないですよね」


「影莉く、ゴホンッ、彼が関係あるなんてそ、そんな事、あ、あり得る訳が無いかもしれない……!」


「無いかもしれない?」


  無いかもしれないだから、あるってこと? でも、かもしれないだから――。


「でも無いなんてことも無いかもしれない……」


「……やっぱり全然わかんないですよぉ、絶対誤魔化してるじゃないですかぁ」


「そんな事はない……」



  そしてその後、生徒会長とは特に目立った会話もなく僕は家へと帰宅した。


「ただいまぁ」


「あら、お帰り。今日はちょっと遅かったわね」


  帰ってきたことを知らせるために挨拶をしながらリビングに入ると夕食の用意をしていたお母さんが台所からピョコンと顔を出してそう声をかけてくる。


「うん、ちょっと本読んでたら遅くなっちゃった」


  ピアノの事はまだお母さんには内緒だ。だから申し訳ないけど誤魔化すことにした。


「そう。最近は陽が高くて暗くなるのも遅いからいいけど気をつけなさいよ。莉佐は私に似て美人なんだから」


  恥ずかし気もなくそんなことを言ってくるお母さん。僕は美人なんかじゃないのに。


「もう! やめてってば! そういうのっ!︎ 家ではまだいいけど外では本当にやめてね! お母さん」


  僕がそういうとポカンと呆けた顔をお母さんは作った。


「な、何? 何かおかしなこと言ったかな?」


「……いや、なんかこう、『質』っていうの? いい質の表情するようになったなぁと思ってね」


「……なんかおんなじような事ちょっと前、先生にも言われた。そんな変わったかなぁ」


 先生に言われた時と同じように自分のほっぺたをムニムニと揉みしだく。自分じゃ全然わからないんだけどなぁ。


「そんな、ムニムニしなくても平気だって。おかしなことじゃなくていい事なんだからさ」


「そう言われても気になるよぉ」


  荷物を置くのも忘れて自分のほっぺをムニムニしていると、台所に立っていたお母さんが腰につけたエプロンで手を拭きながら僕の方へやってくる。お母さんの口元がニヤニヤと緩んで見えるのは僕の気のせいだろうか。


「それで、何があったのぉ? 莉佐の心を変えちゃうような何かがあったんでしょう?」


「い、いや、別に大したことはないって」


  気の所為じゃなかった! やっぱりニヤニヤしてるよ! 何かあったって気づいてるよ!


「はいはい、わかってるわかってる。で、何があったの?」


  お母さんは指で僕の頬を突いてくる。


「もう! 全然わかってないじゃん!」


「やっぱり、男の子かな。どんな子よ?」


  なんでこういう時だけ鋭いの!


「そ、そんなんじゃないって!」


「あ、今の反応、男の子かー。莉佐はあんまり騒がしいタイプじゃないから、大人しめな子かしら。今度家に招待しなさい。あ、でもこっちから挨拶に行った方が良いのか。莉佐がいつもお世話になってますって」


「いつもなんかじゃ、ホント最近……あっ」


「ふーん」


  お母さんは目を輝かせ、完全に自分のペースで次々に畳み掛け言葉を続ける。


「写真はないの? その男の子の写真!」


 いい加減止めないとこれからずっとからかわれる気がする。


「お母さんんんー!」


  その日から一週間ほどからかわれ続けることをこの時の莉佐はまだ知らない。



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