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孤高にして影の王  作者: mikaina
1章
32/72

ぼっちは遂に邂逅する4

 

「……ありがとう」


「は、はい、それは良いんですけど……なんで倒れてたんですか?」


  廊下で倒れていた会長を引っ張ってなんとか音楽室まで運びタオルを枕がわりに寝かせ休ませていたら程なくして会長は目を覚ました。


  噂に名高い生徒会長と会話しているというだけで緊張で背中に冷たい汗が数粒湧いた。それ以上にそんな生徒会長が倒れていたことに驚きが隠せない。彼女が倒れるほどの出来事。一体何が起きたんだろうと気になり、質問してみる。


「それは……。影……くんが……かけて……私の事を、ふへっ……」


「いや、全然わかりません」


  声がちっちゃくて途中途中言葉が抜けてるし、最後変な笑いが出てたし。非常に気になるけど話したくないってことなのかな。それならそれで構わないと莉佐は考えた。


「……あの」


「ふへっ、覚えて、影……ん?」


  なんかトリップし始めた生徒会長に声をかけて正気を取り戻させた。莉佐の顔を見つめる端正な顔は少し不機嫌そうに口を歪めている。


「せ、生徒会長は、彼、黒瀬くんの事詳しいんですよね?」


  僕が彼に救われた直後、廊下ですれ違った生徒会長は「ようこそ、影の領域に」と僕の耳元で囁いた。なら彼女は彼について知っているということだろう。


 僕が初めて黒瀬くんの噂を聞いたのは約一年前。


 そして噂は真実だった。なら黒瀬くんと生徒会長の関係は少なくとも一年前には始まっていたという事になる。ならば生徒会長は少なくとも僕よりも彼について詳しいはず。どんな関係かは知らないけれど。


「……あなたよりは詳しい……と思う……」


「思うですか?」


「そう。……で何を聞きたいの……」


 露骨に話をそらされた気がする。だが聞いてくれるのなら莉佐にとっては願ったり叶ったり。


「く、黒瀬くんって、そのなんで僕を……」


 うまく言葉に表せず言葉に詰まってしまう。何で僕を助けて、救ってくれたのか? それだけを伝えるだけでいいのに。


「彼は私たちの、『一人の者』の味方。だからあなたを導くため行動で示した、それだけ……」


「……」


  僕が何を言いたいか、聞きたいか、知りたいか、元々知っていたのかもしれない。


 その場を詳しく見ていたわけでもないのにどうやって知っているのか。不思議な存在。その点において黒瀬くんと生徒会長は似ている。莉佐は彼と紫音をそう結びつける。


「そうですね……」


「そう、それだけ……」


  そう言った彼女の顔には少し影が滲んでいた。何が彼女にそんな顔をさせるのだろうか。


「それに」


  生徒会長はそう言葉を続ける。


「彼は全部知っているから……」


「全部、ですか?」


「そう、例えば貴女が今日ピアノを演奏していた事、とか……」


「いや、それは流石に嘘じゃ、僕誰にも言ってないですし。まぁ言う人がそもそもいないんですけど……」


  なんか自分で言ってて辛いし、悲しいなぁ。莉佐の視界がじんわりと滲む。


「あ、でもさっき……」


  音楽室を一度出た時、彼らしき後ろ姿を見たのを思い出す。さっきは気のせいか幻想だと思ったけど……。


  まさか聴いていてくれたの……?


「さっき、ドアの前で耳を澄ませていた……。超絶ウルトラハイパーカッコよかった……」


「やっぱり、あの時の」


  最後の方、声が小さく何を言っているか聞き取れなかったけれど彼が僕のピアノを聴いてくれていた事は確かなようだ。


 彼に聴かれていたというだけで顔が熱くなるのを莉佐は感じた。生徒会長から見れば燃え上がるんじゃないかと心配になるほど今の僕は真っ赤っかだろう。


「トマトみたい……」


  あぁー! 恥ずかしいっ! なんで僕はもっとちゃんと曲を弾かなかったんだろう。あんな疎い演奏を聴かれたなんてあんまりだよぉー! 絶対バカにされちゃうよぉ。いつか聴かせたいとは思ってたけどいくらなんでも早すぎるよぉー!


  言葉に言い表せないほどの恥ずかしさに思わずその場に蹲って莉佐は頭を抱え込んでしまう。


「良い演奏って私が言ったら肯いてた……」


「それ、ホントですか!?」


  即座に立ち上がって事実確認を行う莉佐。


「本当……」


「や、やったっ」


  安堵のため息が口から漏れた。


  でも、お世辞の可能性も、いやいや黒瀬くんがそんなお世辞なんて、いやでも。うーんうーんと彼が莉佐の演奏をどう思ったかに一人一喜一憂しているとはたと気付く。


 あれ? 今会長、「私が」って……。


「会長も聴いてたんですかっ!」


「聴いてた……」


「じゃ、じゃあ、会長っ、聴いてみて、ど、どうでしたかっ。僕の演奏はっ」


「楽しそうだった……」


「あれ? それって褒めてます?」


「ン、褒めてる……」


  紫音はそう言って少し不自然な強張った笑みを浮かべた。


  不自然ではあるけれど同性の僕すら魅了され言葉を失ってしまうほど可憐な笑み。


  そんな生徒会長を見て、なんで彼女のような人物が黒瀬くんのことを気にかけているのだろうと今更ながら疑問に思う。


  生徒会長は傑物だ。


  例えば、勉学において、彼女はこの学園の中でも偏差値の高い「エリート科」に所属してはいるがそんな「エリート科」ですら彼女には吊り合っていない、相応しくないだろう。それはスポーツ、芸術においても同様に言える事だ。


 見た目だってそうだ。漆のような艶やかな髪。作り物を疑うほど整った端正な美貌。白く美しい陶器のような肌。スラっと伸びた細い脚と腕。そしてすっごいおっぱい。制服の上からでも主張し続けてる。Eカップぐらいあるんじゃないかな。


  漫画やアニメの世界のような、現実にいることが不

 思議なほど絵に描いたように完璧超人な生徒会長。


  そんな彼女がなぜ……。


「会長はなんで黒瀬くんを?」


  普通に考えて言葉が足りないだろう。だけど彼女になら伝わると僕は確信していた。


「……別に」


「えっ?」


「別におかしいことなんて一つもない。私は彼の隣を歩む……」


 それは酷く曖昧な答え。私の問いかけに対する答えになっているか、いないかの判断すら難しいような回答。


 会長の言ってる意味は僕にはあまり理解できなくて。だから、もう一度問いかけようとして、やめた。


 そう語った後の会長は目の前にいる僕なんか見ていなくて、堕ちる太陽を見てもいなくて。ただ、どこか遠くを見ていたから。その視線の先にあるのは虚無か、あるいは――。


 そこに言葉を挟むのは野暮だと思ったから。




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