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孤高にして影の王  作者: mikaina
1章
34/72

エピローグ

終幕?

 

  キンコンカン☆コーンッ! キラッ☆


  昼休みを告げるチャイムが鳴った。


  財布を持って購買へと向かいパンを購入した。今日は少し甘めのパンたちだ。帰り道、自販機の前で一度足を止めた。

 規則的に点滅する淡い灯、百円硬貨を一枚と十円硬貨を二枚取り出し、コイン投入口に滑らせる。


 炭酸ジュースを買おうとしていたはずなのに自然と指が炭酸ジュースの隣のボタンを押していた。

 ほろ苦いブラックの缶コーヒー。取り出し口から取り出し、片手で掴みあげるような形で持ちながら廊下を歩く。


 甘いもんには苦いもん。相反する二つは意外と相性が良かったりする。


  甘さと苦さ。太陽と月。暑さと涼しさ。優しさと厳しさ。陰と陽。


  案外、そういったもんは全部合うもんだ。話してみたら意外とノリがあったり、食べてみたら食べ合わせが存外良かったり。


  相反する、正反対のものが存在すればそれはきっと一緒に、共になれる。誰かと、何かと共有出来る。


  結局のところ相性が悪くても良くても分かり合える、妥協しあえる時が来る。ならばいずれ共に歩む仲間や友は見つかるだろう。


  ならば、ぼっちはどうだろうか。


  愚問だ。


 その答えは俺だけが知っていて、俺さえ知っていれば良い。


 他の誰かじゃなくて俺だけ。二人でも三人でも、まして皆なんかじゃない。


 ただ俺独りだけでいい。


 騒がしい廊下をビニールを持ちながら歩く。


 初夏の始まりは告げる風が窓から吹き壁に掛かったよく分からない芸術展のポスターを鳴らした。もう至る所に夏の始まりを告げる空気が転がっている。だんだんと春の面影は薄くなって来ている。それは四十半ばを超えた俺の父親の毛髪と酷似していた。


 昼休みだからだろうか。それとも夏のせいだろうか。


 いつもよりみんな一段と騒がしい。数人で固まりながら笑い、言葉を交わし、進んでいく。その中を独り、ただ独り、俺は静かに掻き分ける。川の流れに逆らう鯉のように、人の流れに逆らっていく。


 そんな中、遠くに見覚えのある女子二人を見つけた。


 茶髪と黒髪の女の子。


 一井莉佐に羽独紫音。二人は肩を並べ、この喧騒に満ちた廊下に順応し流れに沿って歩んでいた。そこに笑顔は別になかったが。


 仲良くなったのか……。


 嬉しさと寂しさが対になり込み上げてくる。


 ……馬鹿馬鹿しい。あぁ、本当に愚かで馬鹿馬鹿しい。


 何が寂しさだ。寂しさなんて抱くな。勝手に被害者ヅラか、俺よ。寂しいなんてありえないだろ。そんなくだらない感情は今すぐに捨てろ。見苦しい。忌避しろ。そんな感情に意味はないと。


 くだらない感情を抱いた、抱いてしまった愚かな自分を自分で戒める。


 俺は独りだから。それが当たり前。


 漫画やアニメのように道を踏み外したら誰かが説教しに来るなんて、助けに来てくれるなんてそんな事はありえない。俺にとってはファンタジーでファイナルでフィクションで幻想だ。

 道は一度踏み外してしまったら、間違えた道を進んで迷子になってもそのままだ。後ろを振り返っても、前を見据えてもそこには誰一人いない。


 故に間違った自分を戒めることができるのも俺独りだ。


 俺はきっと誰とも分かり合えないし、誰の道とも重ならない、交わらない。


 それはきっと何が起きようとも。


「ありがとう」たとえお礼を言われるような何かをしたとしても。


「そろそろ、終わりの時間」たとえ共に音楽を聴き、会話したとしても。


 道は一方通行だ。物語の主人公のようにそこからラブコメなんて始まらない。


 肩を並べる二人の背中を見つめながら思った。

 今日は外で食おう。


 何かを誤魔化すように足を早め、俺は階段に足をかけた。


 直前、廊下を歩く彼女達の背中を視線が自然と追いかけた。


 その背中は実際の距離よりもずっとずっと遠く眩しく感じた。


 俺にとっては彼女達ですら眩しすぎる。ですらなんて言い方は失礼か。


 自分が漆黒の闇の中に居るだなんてカッコつけるつもりは毛頭無いけれど、影から見る光は余りにも眩しすぎる。


 俺と彼女達の道は重ならない、交わらない。


 ラブコメなんてのはリア充に起こるもので、ぼっちの俺には縁もゆかりもないもんだ。


 階段を下っていく。


 辺りに群れる喧騒を今この時ばかりは有り難いと感じた。もう視線は前だけを捉え、彼女達を追う事はなかった。


 



「……い長? 会長? 会長! ボーとしてますけど大丈夫ですか?」


「ン、ごめん。なんでもない……」


  はっと意識が宙空から戻ってくる。


  紫音は声をかけてきた隣で座っている女の子に軽く謝罪した。


  紫音は先日彼について教えてほしいと言ってきた女の子とベンチで隣り合い腰を下ろしていた。理由は勿論、彼、影莉くんについて教えるためだ。


  だけど何だろうか。さっき重要な欠片を落としてしまったような虚無感が……。


「それなら良いんですけど……黒瀬くんについて教えて下さいよっ」


  気になって仕方がないのだろう、前屈みになって女の子がそう言った。


「じゃあ、最初は噂の話……」


  噂じゃない……真実は噂になり得ない。噂と自分で言っておきながら心の中でそれを紫音は自分で否定した。


「噂……。それなら、私も聞きました。最初はありえないって……」


「そう、その噂……」


  ゆっくりと一つ一つの言葉を大事に紡ぐように語り出す。



  この影春学園には『ある噂』が存在している。


 それはあまり多くない人数のみが知る噂。


 一人でいる者にだけふと聞こえてくる不思議な噂。


 どうやって一人の者に噂を届けているのかなんて誰も知らない。噂とは風のようなものだから。


 その噂はどれも聞けば笑ってしまうな眉唾な話。


  だけどその噂は真実だ。少なくともその噂を知っている者は皆真実だと確信している。


  その者達曰く、彼こそがこの学園を支配している。


 曰く、彼は私たちを常に導いている。


 曰く、生徒会長すら学園入学すぐに手中に収めた。


 曰く、彼は全てを知っている。


 曰く、某のライバルになり得る唯一の存在。


 曰く、彼は僕を救ってくれた。


 曰く、曰く――。


  噂を知っている、いや、真実を知っている者は口々に語る。



「彼こそが。常に孤独で、全てを見通す黒瀬影莉こそが、この学園を陰から見守りこの学園の影として存在する――」



  それは『光とは相反』するものだけど、私達はそれに救われたから、憧れる。


  いつも『独り』で私たちを導いてくれるから、いつかは私達が救いたいと願う、否、願うだけでなく行動する。


  そして最後に皆がこういうのだ。



「孤高にして影の王なのだ」と。






ここまでお読み頂きありがとうございます!

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