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オメガ基地


 ヒロが暗黒波動剣の修行に明け暮れていた頃、惑星タウの軌道にあるオメガにハットリ老はいた。


 オメガは惑星タウを周回する衛星だ。

 酸素や水はないが、トレーディング企業の施設を中心に数カ所のカプセル型都市が存在している。

 その都市のひとつにイガ・コミッティのメンバーが人目を忍んで潜んでいた。

 ここはオメガ基地と呼ばれ、有事に備えて戦闘艇や武器などを備えてあった。

 アトロス軍は近隣の空間にはおらず、メンバーはひとときの平安な時を過ごしていた。


「老師、アトロス軍に動きはありません」

 情報担当がハットリ老に報告する。ここには最新鋭の情報機器がそろっている。


「うむ」

 ハットリ老が目をつむったまま答えた。

 テクト警部が予言した惑星タウへの最終攻撃は、刻々と迫っているはずだった。

 惑星タウから撤退したアトロス軍の艦隊は、現在どこにいるか補足できていない。

 各惑星に駐在する仲間の情報では、タウから10光年ほどのスターダスト隕石群に潜んでいたようだが、すでにそこから移動している。

 スターダスト隕石群から惑星タウまでは、アトロス軍の戦艦の性能だとわずかに半日だ。

 よって作戦開始後、すぐに最終攻撃が始まると考えられ時間の猶予はほとんどない。

 ハットリ老は緊張した面持ちで宇宙空間を眺めていた。アトロス軍の主力艦隊が、今にも現れるやもしれないからだ。


 オメガ基地の格納庫では着々と戦闘艇の整備が行われていた。

 アトロス軍は、惑星の中心核へ陽電子波による攻撃を行うと予想されている。

 イガ・コミッティのチームは、この惑星破壊兵器に目標を絞り殲滅する作戦だった。

 整備班も戦闘艇のパイロット達も、命を懸けた戦いへの準備に余念がない。


 そんな中、カイルとノエミは格納庫の休憩スペースで外を眺めていた。

 目の前に美しい青と緑の惑星タウが広がる。


「ノエミ、タウは美しい。そして君も・・」


 ノエミは黙ってカイルを見つめる。絡み合う二人の視線。

 ノエミはアトロス軍の兵士だったが、オンミツ地区での戦いでプロセシオン隊長率いるチームIGAに破れた。そしてカイルとの運命の出会いを果たしている。

 二人の特殊なセンスは、お互いに前世の記憶を持っていた。

 前世でも二人は共にあり、共通の目的のため生きていたことを感じるのだった。

 必然の出会いによって、来世でも共に生きる確信のある二人は、死を恐れることはない。

 たとえ死んだとしても、再び出会える確信があるからだ。

 ある意味、二人はお互いが属する組織、つまりカイルはイガ・コミッティであり、ノエミの場合はアトロス軍だが、その組織の枠を超越していた。


「ノエミ、この星を守りたいかい? この美しい星を」

 カイルはノエミを真っすぐに見つめながら聴いてみた。ノエミはこくりと頷く。


 二人は今、イガ・コミッティの基地の中にいる。最初ノエミの扱いは捕虜だったが、カイルはハットリ老に全てを話して投獄を免れている。

 カイルが話した前世の記憶について、ハットリ老はにわかに信じがたいという表情をしたが、カイル、ノエミの両者のユニバース・センスを感じ取り、その高いセンシング・レートから二人の関係が特別であることを知った。センシング・レートとはユニバース・センスの波長の共振率のことだ。

 ハットリ老はノエミを敵捕虜ではなく、イガ・コミッティのメンバーとして迎え入れた。

 ノエミはアトロス軍の特殊部隊隊長であり、オンミツ地区での戦いでカイルの属するチームIGAによって部隊は壊滅させられ、自分自身も撃墜されている。

 言わば最大限の屈辱を味わっており、イガ・コミッティに強い憎しみを持つのが普通だが、彼女は違った。

 それはカイルとの出会いが理由だった。

 カイルに命を助けられたとき、お互いのユニバース・センスが共振しあった。

 その瞬間、何かがノエミの心の中で解放された。それは花の種が熟して一気にはじけ飛ぶような、そんな感覚だった。

 過去の失われたカイルとの共有した時間がノエミの頭の中でフラッシュバックする。


「ああ・・、私にはこの人が全てなんだわ。これまでもそしてこれからも・・」

 ノエミは全てを理解した。自分自分の存在意義やこれからすべき事を。

 その瞬間にノエミの中のアトロス軍への忠誠心や帰属意識は消え去った。


 ハットリ老はノエミをパイロットに推薦した。

 コミッティメンバーの中には反対意見もあったが、ハットリ老の説得によりそれらの人間も了承するに至った。

 ノエミもカイルと共に戦える事を喜び、晴れてイガ・コミッティのパイロットとなった。

 二人には、つい先日オメガ基地に配備されたばかりの機体が与えられた。

 この機体に乗る予定だったパイロットの一人がオンミツ地区の戦いで戦死。もう一人のパイロットも重傷を負ってしまったため、たまたまカイル達が乗ることになったのだ。


 今、カイルとノエミは搭乗予定の新型のスペースシップの前にいる。

 機体は流線型で猛禽類の鳥をイメージさせる。

「ノエミ。新しい機体だ。コードネーム、ツイン・コンドル。少し飛んでみるかい?」

 カイルが真新しい機体を見ながら聞いた。

 機体にはメカニックが徹夜して描いた、カイルとノエミの新しいシンボルマークが見える。

 シンボルマークは2羽のコンドルが重なりあうものだった。


「カイル、もし飛んでみるならフル・ステルスモードで飛行しろ」

「場合によってはやつらと即、戦闘になる可能性がある」

 メカニックのケインJrが大声でカイルに言った。昨晩、徹夜でマークングやら整備をしていて機嫌が悪そうだ。

 カイルはケインJrに笑顔で頷き、ノエミに向き直って出発しようと伝えた。

 二人は更衣室でパイロット・スーツに着替えた。

 イガ・コミッティのパイロット・スーツは忍者服を思わせるデザインになっていて、宇宙空間での活動が考慮され生命維持機能が装備されている。


 二人はパイロット・スーツ姿で新鋭機ツイン・コンドルの待つデッキに再び降り立った。

 カイルはユニバース・センスを使い機体をアクティブ化。機体は瞬時に起動しカイルの指示に従って機体後部の搭乗口を開いた。

 カイルとノエミはツイン・コンドルに乗り込んだ。

 座席は二座。それぞれの座席に座り機体の状態をチェックする。


「ツイン・コンドル。機体状況オールグリーン。発進準備完了」

「これよりノエミと共に新しい機体の試験飛行を行う」

 カイルは司令部のオペレータに伝える。オペレータは了承しすぐに発進許可を与えた。


「ノエミ、行くよ」

「ええ」

 カイルは発射シーケンスに入った。


「ツイン・コンドル。カイル、ノエミ発進する!」


 カイルは高らかに宣言し、機体を上昇させた。

 猛禽類の機体のエンジンはとても静かだ。この銀河に大航海時代をもたらしたニュートリノ・エンジンは、そのエネルギー量にも関わらず騒音は小さい。

 特にイガ・コミッティは、組織の特性上、戦闘艇のエンジン音に限らず、普段の生活で使う換気扇やエアコン、洗濯機、トイレの洗浄音に至るまで静寂性を求めた製品を採用している。

 今乗っているツイン・コンドルのコックピットも静寂でクリーンな空間だった。

 

「カイル、私、このコックピット静かで好きよ」

「僕もだよノエミ。君の息づかいや服の擦れる音まで聞こえる」


 浮かれる二人をよそに、機体は上昇しドックを出た。

 目の前に煌めく銀河が広がる。後ろには青と緑の惑星タウが美しい姿を見せているだろう。

 カイルはメカニックのケインJrが言ったように機体をステルス・モードにした。

 機体表面が光学迷彩でまわりから目視できなくなった。音もなく姿も見えない怪鳥。

 まるで二人の存在はこの世界から突如消えてしまったようだ。


「ノエミ。二人きりだよ」

「そうね。この広大な宇宙に二人きり・・」


 カイルは、エンジンを全開にして飛んでみた。

 目の前の小惑星がどんどん後ろに流れてゆく。フル加速の時に機体後方からわずかに白い粒子が出たが、それも一瞬のことだった。

 全開にしてみてもほとんど音はしない。僅かに機体の振動が大きくなったのみだ。

 続けて右旋回、左旋回、急減速、キリモミ飛行など一連の飛行パターンを行ってみた。

 無重力の宇宙空間とはいえ機体には強大な力がかかっているはずだが、特に軋む様子もなくしっかりとした剛性を保っている。

 またこのような過減速を繰り返すとコックピットの人体への負担が大きくなり、貧血になったり嘔吐したりするものだが、ツイン・コンドルは快適な状態を保っている。


「いい機体だ」

「これまで扱った機体もすばらしかったが、この機体は完成度が高い」


「カイル。私も操縦させて」


 カイルはメインの操作系をノエミに譲渡した。ノエミには不慣れな操縦系だったが、それでも様々な操縦パターンで飛び回る。さすがにアトロス軍の元エースパイロットだ。

 それはカイルに劣らないすばらしい操縦テクニックだった。


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