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灼熱のビーチ


 ここはFEにあるロマニオール連邦共和国の首都マチュアンカ。アトロス軍が惑星タウのオンミツ地区から撤退して1週間が過ぎた。


 ミス・アリスの研究所では、ビューティの修理が完了し起動試験を行っていた。

 マリーもその試験に立ち会っている。傷はすでに完治していて、筋力の回復や忍術の感触を取り戻すために日々トレーニングに勤しんでいた。

 ミス・アリスがゴンザに指示を出している。


「ゴンザ。ビューティの組み上げは全て完了したわね」

「神経系の回路接続は問題ない? エネルギー伝達経路のミスは大変なことになるわよ」

「だ、大丈夫でガス。多分・・・」

 ゴンザは不安そうだ。ミス・アリスが渋い顔をする。


「しょうがないわねぇ」

 ミス・アリスはビューティの背中を開き、自分自身でエネルギー回路をチェックする。


「うん。大丈夫そうね」

「モデルナンバーBTY00、ビューティの起動試験を行います」

「ゴンザ、メイン電源を入れてちょうだい」

「あい。了解でガス」


 ゴンザはビューティのボディに近づき、首の後ろにあるメイン電源をいれた。実際にはスイッチらしきものはないが、指でパスコードをスライド入力するというものだ。

 ビューティは瞬時に起動した。目が開いて頭部に表情が映った。目がぱちくりしている。

 長いまつ毛も立体的に見え、ステレオグラム表示も正常に動作している。


「あら、ミス・アリスにゴンザ。マリーも。おはよう」

「私、再起動されたのかしら?」

 ビューティはミス・アリスを見つめて、少しとぼけて言った。

「そうよ」

「あなたはジェネラル・マーティとの戦いで大破してここに運ばれたの」

「覚えていると思うけど胸が陥没していたわ。自慢のエネルギーコアが停止していたの」

「私が誰かわかる? プロセスコアにはダメージはなかったようだけど・・」

 ミス・アリスがビューティを覗き込んで聴いた。


「もちろん、わかるわよ。あなたの美しい顔もよく見えるわ。アリス先生」

 ビューティはにっこりした顔を表示させた。

「だけどアリス。右手の神経接続おかしいわよ。親指がうまく動かないわ」

 ビューティはそう言うと、左の手のひらにステレオグラム表示されるステータスリストを確認しながら、自分自身で右手の接続系をアップデートした。

「よし、これでOKよ。他の機能はと・・・」

 ビューティがそう言うと、また手のひらに自己診断結果がリストアップされた。

「神経系エラー15カ所、駆動系エラー2カ所。ひどいものね。ちゃんと確認したの先生?」

 ビューティは瞬時に自己修復プログラムを起動し接続エラーを直した。

「あと、物理回路をつなぎ直さないとダメなところがあるわね・・」

「いいわ。あとでバスルームでやっておく」

 バスルーム? ロボットでも羞恥心があるのかしらと マリーは思った。

 ビューティはピョンと立ち上がり、手足を軽く動かしフットワークを確認する。

「なんか、前より調子いいわね。各部の反応速度が平均21%早くなってる。おっ! エネルギーコアの最大出力も2.8倍に増えてる!」

「すごーい! これならちょっとした山なら叩き割れそうね」

 ビューティは手刀を振り回しながら自分の体をまじまじと見ている。


「あなたが開発された当時からだいぶ経つわ。技術の進歩も相当なものよ」

「リチャード卿から、あなたの修理では金に糸目をつけるなと言われているの」

「だから最高の部品を使ったわ。でも自然を破壊するのは止めた方がいいわね」

「それと、あなたが装備可能な武器を調達しておいたわ。小型のポジトロン・ミサイルも入れてあるわよ」

「ターゲットに接触すると陽電子反応で周囲1キロくらいは吹き飛ぶわ。戦艦の重装甲でも大穴を開ける事ができるのよ」


「すごい装備ね。これから戦争にでも出かけるのかしら?」

 ビューティは伝送された装備品のリストを照合しながら言った。


「そうよ、ビューティ。私たちはこれから戦争に行くの。アトロス軍とのね」

 そこにマリーが割り込んで答えた。


 惑星タウの状況は逐次、ミス・アリスの研究所に報告がきていた。

 マリーはハットリ老から惑星タウが破壊されようとしていることを聴いていた。近いうちにアトロス軍との決戦の時がくるのは間違いない。

 マリーはミス・アリスと相談し最新の武器を補給して、ビューティの修理が完了するのを待っていたのだ。

 そのビューティの起動も完了した。もともと強力だったパワーが更に上がり、武器も強化され最高の状態にある。

 マリーは彼女専用のバージョンアップしたNJプロテクターを手に入れ、アマリリス正宗の調整も完了している。


「あとは、ヒロの技が完成すれば・・・」

 マリーは遠くを見つめてつぶやいた。




 その頃、ヒロはマチュアンカを離れ、FEの赤道付近にある無人島に来ていた。

 その島はピノイ共和国に属していたが、最も近くの有人の島でも50キロは離れている。

 危険な技の修行をするには都合の良い場所だった。

 気温は38度。ちょうど昼時で太陽が高い。真っ赤に照りつける太陽のもと、ヒロは浜辺のヤシの木陰に立ち水平線を眺めていた。


「よし」

 ヒロはジャスティンがマーティ戦でしたように、ドラゴンブレードを構えた。

 目を閉じたヒロの網膜に技をしかける時のジャスティンが蘇る。

 ヒロは一呼吸おいて術文を唱え始め、ユニバースセンスを集中して技を発動した。


「・・・暗黒波動剣 キリ・オウ・サ!」


 ドラゴンブレードの三文字の梵字がフラッシュした。ダークマターが大気中からドラゴンブレードに集まってくる。

 ドラゴンブレードはその内部に小宇宙を作り始めた。

 ここまでは、ジャスティンのときと全く同じだった。


 しかし、次の瞬間、ドラゴンブレードに集まったダークマターが一気に霧散する。

 小宇宙に見えていた銀河も無くなってしまった。


「く、また失敗か・・。一体、何が足りない?」

 ヒロがここで技の修行を初めて数日が経つが、いまだ技は完成していない。


「ふう、暑い。喉がカラカラだ」

 ヒロは水筒の水を飲みながら言った。額から滝のような汗が流れ落ちる。

「私も暑くて壊れそうです」

 一緒にきたFR550は、頭のLEDをピカピカさせながら言った。

 ヒロは、マリーから借りたさそり型スペースシップ、スコルピオでこの島にきた。

 船から持ってきた携行食をほおばりながら、ヒロは美しい海原を眺めていた。

 燦々と降り注ぐ太陽。真っ白な砂の浜辺が続く。砂のきめが細かいので裸足で歩くと、サラサラとした感触がとても心地いい。

 海は透明度が高く遠浅で、砂浜のホワイトサンドが海にも広がっている。スカイブルーの海面には太陽光が反射しきらきらと揺らめいていた。


「FEにも、こんな奇麗な場所があるんだ・・」

 ヒロは修行を忘れ思わず見とれた。


 その時だった。FR550がハットリ老からの通信を傍受した。

 すぐにヒロが話し始める。


「老師! ご健在で」

「お里はどうですか」


「うむ、壊滅からは免れておるがひどい有様じゃ」

「そっちはどうじゃ。暗黒波動剣とやら使える様になったかの?」


「いいえ、まだ。もう少し時間がかかりそうです」

「そうか・・」


「実は悪い知らせがあっての。アトロス軍は次なる作戦を考えておるようじゃ」

「どうやら奴め、惑星タウを惑星グリーゼのように消滅させる気じゃ」


「え?」

 ヒロは驚いた声で答えた。


「UCPOがその動きをキャッチした」

「まだアトロス軍の動きはないが、近く高い確率で実行される見通しじゃ」

「惑星タウにいる、全てのアトロス軍関係者に星からの退去命令がでておる」

「イガ・コミッティのメンバーの多くは、すでに惑星ケプラーへ避難が完了した」

「移動は他の惑星を経由し極秘で行ったため、しばらくは安全じゃろう」


「UCPOは惑星タウの主要国政府にこの情報をリークした」

「各国政府はこの情報を市民に隠しておるが、すでにパニックが起こりつつある」

「一部の高官やその家族が惑星を脱出したが、いまだ多くの市民が星に留まっている」

「そして市民全員が脱出するのに必要なスペースシップは、残念ながらタウにはない」


「だからヒロ。ワシ等が惑星タウの破壊を阻止するのじゃ」

「その為にイガ・コミッティの精鋭部隊をタウの軌道衛星オメガに駐留させた」

「おぬしもこの戦いに加わってほしい」

 ハットリ老はヒロにお願いした。そこには絶対にアトロスに屈しない強い意志を感じる。

 しかしヒロは返事に躊躇した。未だ暗黒波動剣は完成せず力も満足のゆく状態ではない。


「ヒロ。時間がないんじゃ。この星を救えるのはお前しかいない」


「・・・わかりました」


 ヒロは大きな不安があったもののハットリ老に頷いた。

 惑星グリーゼ消滅の時、その消滅に巻き込まれ消えていった百億もの命の灯火を、ヒロは直接感じている。ここで諦めてしまうとまた多くの命がアトロスに奪われることだろう。


「もう少し時間をくれますか? 暗黒波動剣の修行にメドを付けたいのです。老師」

「うむ・・。じゃが時間はないぞ。ヒロ」


 二人は通信を切った。ヒロは大きくため息をついた。

 過去のアトロス軍との戦いで父が死に養父であるジェームスも殺された。他にも多くの仲間を失っている。アトロス軍への憎しみが沸々とわき上る。

 しかし、自分にはアトロス軍をねじ伏せるだけの力がまだない。

 ジェネラル・マーティ一人との戦いでさえ、ジャスティンの助けで何とか逃げ出したのだ。


「急いで暗黒波動剣を身につけなくては・・」

 ヒロは焦っていた。


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