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5 エピローグ:地主は足掻く

最終話です。よろしくお願いいたします。

 俺は、猿轡をさせられ、『勇者』の仲間である2人の男に押さえつけられ、顔すら満足に動かせない。

 しかし、ならばとこの3年を共にした女を睨みつける。

 女は驚いたようであった。それはそうだ。

 これまで強い感情を向けることなどなかったのだから。

 そして、行商人と名乗る男を見る。それを3度も繰り返すと、女も気づいたようであった。

 この男が自分たちを売った男であると。

 しかし、今更女がそんなことを言ったとしても、俺を人殺しだと認定した『勇者』の決定は覆らないだろう。

 なので、もう一度女を睨むと、今度は『勇者』の持つ剣を見る。

 その後、目を縦に動かす。

 頼む。気づいてくれ。


 女は言った。

「その手に持つ剣を見せてもらえませんか。」

 なにをバカなと、手に持つ剣を縦に掲げて『勇者』は否定する。

「これは証拠となる剣だ。渡すわけにはいかん。」

 何が証拠だ、抜いてもいないくせに。

 もう一度目を縦に動かす。

「それではその剣を抜いてみてください。あなたが抜く分には問題はないでしょう。

 もし、なにかしら仕掛けを警戒しているのでしたら、代わりに私が抜いて差し上げますが。」

 『勇者』は無言で剣を抜き放った。

 いや、正確には抜き放とうとした。

 しかし、抜けない。

 錆びて抜けなくなっているのだ。

 それでも『勇者』は少しずつ抜き放つ。

 しかし、それも途中でやめてしまった。

 それはそうだ。完全に錆びてしまった剣がどうやって月夜に輝くというのか。

 『勇者』は行商人を睨む。

「どういうことだこれは!!」

 しかし、行商人は動じない。本来の目的はすでに果たされている。

 この場をどうにかごまかし、借用書という契約書を突き出せば、この一家を自分の奴隷にできるのだから。

 

 それでも、俺はそんなことをさせるつもりはない。

 俺は初めて、猿轡の間から醜く呻いた。

 『勇者』は驚いて俺を見る。

 『勇者』と相対してから俺は一言も発していなかったのだから。

「旦那様を解放してください。」

 女が言う。

 『勇者』は猿轡だけを外した。

 押さえつけられたままだが正面を見据える。 


 ここからが俺の出番だ。


「お集まりの諸君。まずは突然の出来事に巻き込んでしまい申し訳ない。

また、諸君らの地主としての役目を放棄していたことを詫びさせてもらう。

今回『勇者』殿に叱責いただいた3つの点について、述べさせていただきたい。

 まず、一つ目については、諸君らの姿を見るまで私は皆が不自由なく暮らしていると信じていた。いや、そう思いたかったのかもしれない。不作を乗り越えて誰一人欠けることなく収穫を迎える諸君らを地主として誇りに思う。今後、不作については、私が見回り、諸君らと相談させてもらいたい。

 次に、奴隷として買い、今まで使用人として、勤めてくれた君たちにも礼をいう。

 私の不明により、無理な取り立てをさせてしまったことを詫びたい。

 今回の出来事を契機に君たちを奴隷から解放したいと思う。

 博愛精神を持つ『勇者』殿もきっと賛成してくれると信じている。そして、最大限の協力を惜しまないことを。」


 『勇者』の方を見ると複雑な表情で頷いている。

 よし、協力が得られた。


「そして、最後であるが、私が人を斬ったということであるが、これは完全な誤解である。まず、証拠となる剣については、過去に錆びてしまい、書斎に放置していたものだ。大切な武具を粗末に扱ったことへの非難については素直に受け止めたいと思う。

 さて、これほどまでに錆びてしまった剣が月の光を浴びて反射するだろうか。いや、しないだろう。まして、幸いにしてこの地で人が亡くなったことはまだない。私が死体を隠していると疑う方もいられると思うが、誓って言う。3年前に入館して以来、私はこの館から出たことがない。

 ならば、なぜこのような誤解が生まれてしまったのか。それをお話ししたいと思う。

 公明正大な『勇者』殿が聞いた情報に誤りがあったのではないだろうか。もちろん、剣が錆びていたことではない。私が勇者様に裁かれることによって得をする者がいた。その者はかつて、私の使用人であった者たちの家を理不尽に奪い去り、その上で家を取り返されないように娼館や鉱山へ奴隷として売り払おうとしたのだ。そこに私が横やりを入れてこの一家を奴隷として購入したことによって、金が手に入った。

 奴隷になったのならば、借用書が無価値のものになってしまうはずだ。

 しかし、借用人が奴隷でなくなれば、借用書の主として改めて奴隷にすることができる。そんなことを考えたのかもしれない。

 もちろん。これは推論でしかない。

 しかし、これが本当であり、『勇者』殿が真に公明正大であるならば、偽りの情報で奴隷の契約を解除し、その所有者を亡き者にする計画に協力し、その使用人が再び奴隷になることなど認められるはずもない。万難を排して救ってくださると信じている。

 そこで、行商人よ、私は今あなたの偽りの証言によって人を殺めさせようとしたと推論を述べてしまった。

 誤りであるならば、早急に取り消して詫びねばならない。そのためにも、借用書をその身に忍ばせていないか改めさせてもらいたい。」

 

 俺を押さえつけていた2人を男が離れる。

 すると、行商人は笑みを浮かべ、こちらに歩いてくる。


 それは一瞬のことであっただろう。

 行商人が袖口に隠し持ったナイフで胸を突いてくる。

 俺はナイフの腹を右手の甲で弾きつつ、右肩を下に押して足を払った。

足元からカエルのつぶれたような声がした。


 行商人の男は小作人達に取り押さえられた。

 その後、ナイフを回収し、懐を改めると、借用書が見つかった。

 行商人の男が喚く。

 「貴様が雇った冒険者のせいで、俺は国を追い出されたのだ。俺は貴様を許しはしない。」

 

 借用書の内容を見てみると、なるほど、文字の間隔がおかしいところがあり、契約後に追記させられたと思われた。


 『勇者』が近づき、借用書を求めてきた。ここで処分してしまうのが一番だが、魔力を帯びた契約書は簡単に破れず、俺が破ろうとした途端、願い叶わずに剣の錆びにされてしまうだろう。

 おとなしく借用書を渡す。

「この借用書はきちんと契約がされていて、侵すことのできないものだ。」

 『勇者』は言う。

 俺も引退して久しいが、失ってばかりの人生だ、この借用書と共に魔法で散るのも俺に相応しいかもしれない。そんなことを思った。

 だが『勇者』は続けた。

「しかし、この契約者は人殺しを唆す罪人であり、詐欺罪も疑われる。そして、借用書がすでに一度無効になったことを確認した。私の名をもって、神官により解呪させることとする。」

「さすが、公明正大な『勇者』殿だ。」

「私はお前が嫌いだ。だから詫びはしない。」

 そう反発して、『勇者』は去って行った。


 小作人たちが次々に挨拶をしてきた。

 あまりの人数に息が詰まったが、罪人がいない。

 『勇者』が連れて行ったそうだ。

 この地で初めて死ぬ人間があの男になるなど、許せなかったため、『勇者』に感謝した。


 小作人たちを待たせ、使用人たちには多めに金を与えて解放することにする。

 痩せた小作人たちと共に宴にしようとしたが、使用人たちはもう奴隷ではないので準備を頼むことはしない。

 得意ではないが俺も簡単な料理ならできる。

 しかし、食材もなにもかもどこに何があるかわからない。

 屋敷の管理は任せていたのだから。

 困り果てたところに使用人だった女が来た。

「旦那様、お困りですか」

 問いかけてくる。

「もう旦那様でもなんでもない。

これからは一人でなんでもできるようにしなければならない。」

 そう告げる。

「旦那様は帰る場所も伝手もない私たちを放りだすのですか」

 と詰め寄る。

 思わず動揺する。

 この女からこんなに感情的な言葉を投げかけられたことはない。


「それに、どこか新しい居場所を見つけた時に、万が一身ごもっていたりしたら大変ですから」

 と笑った。

 

 その笑顔を見て、これからはひとりではないのだと思った。


初めての作品です。勢いで書きました。

(※若かりし頃の学校の授業を除く)

最後まで読んでくださった方がいればありがたいです。

構成はあってもうまく表現ができないもどかしさがありました。

つたない文でしたが、本当にありがとうございました。

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