4 行商人は訴える
改行を多くした方が読みやすい気がしましたが、
とりあえず、今までどおりで行きます。
(4/5話)
「この者は人殺しなのだ。だから人前にも出ないで隠れ潜んでいる。
この者が夜に剣を持って徘徊し、人を斬っているという。
そんな者を生かしてはおけまい。」
『勇者』が血走った眼で俺を見る。俺は驚いていた。
そんなことはしていない。
弁明しようにも猿轡がされていて話すこともできない。
しかし、やっていない以上、証明することはできないだろう。
『勇者』がこれでおしまいだとばかりに言う。
「証人よ、話せ。」
すると一人の男が出てきて言った。
「そいつ、いや、地主様が人を殺すところを私は見ました。
この前の満月の晩のことです。
行商の身、軒下を借りていた私は、物音が聞こえたので屋敷の方に行くと、近くの森の中で、見知らぬ女とそこの地主様がお楽しみのところでした。
娼婦なら私も買えないものかと森から出てくるのを待っていたんですが、森の中で一瞬何かが光った気がしました。
恐る恐る近づくと、地主様が剣を振りかざして、何度も女の体に突き立てていました。
その時は怖くなって逃げ出しましたが、夢ではないのです。
確かに見たのです。
竜のような装飾のある柄拵えがしっかりしている剣でした。」
その言葉を、男を見て愕然とする。
こちらの動揺を察したのか、『勇者』が笑みを浮かべ、なにか、いや、剣を持ち上げ、
「それはこの剣であったか」
と聞いた。
「そうです。その剣です。」
と男が答えた。
それを聞き、『勇者』は先ほど責められた女に問いかける。
「この剣を見たことはあるか。」
「いえ、ありません。」
「そうだろう、そうだろう。
これは書斎の中に隠してあったのだ。」
群衆が動揺するのが見えた。
俺は『勇者』の掲げる剣を見た。
ああそうか、そういうことだったのか。
俺が冒険者だったとき、剣はあまり使わなかった。
俺よりも優れた前衛がいたし、何より魔法の方が得意だったのだ。
しかし、冒険者たる者、剣を帯刀するべしという思いから、いつも帯刀していた。
けれども、突然のパーティー解散で冒険者を引退することになった。
このときのことはあまり覚えていないが、俺は自暴自棄になっていた。
奴隷となった一家を衝動買いしてしまうくらいに。
奴隷とした一家を宿へ連れ帰るとすぐに宿を引き払い、荷物を馬車に詰め込み、南に南にと、ひたすら駆け抜けた。
開墾予定地を決め、魔法で木々を薙ぎ払い、小さな小屋を建てたとき、
ようやく皮袋に突っ込んでいた剣の存在を思い出した。
剣は見事に錆びていた。
行商人という男は満足げにこちらを見ていた。
なぜこいつはこんなに満足げなのだろうか。
証拠となる剣は、抜いてさえみればすぐに証拠にならないとばれるはずなのだ。
奴隷契約を神官に解除された時点で、お前の目論見は失敗だろ。
取り立て屋。
この男は、使用人をしている一家を奴隷にしたときに取り立てをしていた男だった。
剣の柄を詳細に覚えていたのは、俺との交渉時に見たのだ。
引退する冒険者が剣を売らずにいるどうかは賭けだと思うのだが、開墾するのに武器もなく向かうはずはないと思ったのか、似た剣でごまかすつもりだったのか。
それと、同郷の『勇者』を知っていて、その性格を利用して俺をハメにきたのだろう。
何らかの手口で故郷に帰らせたとしても、奴隷契約にあったこの男への所有権変更はなくなっている。
本来であれば目論見が失敗した時点で動揺してもおかしくはない。
俺を殺すのが目的でなければ、だか。
何かがおかしい。
奴隷契約を行い、俺はあの一家を買った。
解除の術を知っている神官がこの場にいたことは予想外であったが、この男は違うのであろうか。
いや、待て。
あの借金は結果的に返済になっていない。
一家は、返済できなかったから奴隷となったのだ。
こうして奴隷でなくなれば、この男の権利は復活する。
何しろ、借用書は破っていない。
俺は、最期の悪あがきをすることにした。




