第2話「いってきまー……しに暑い……」
「ふんふーん」
皆さんは「宜野湾市」をご存じだろうか。沖縄本島の中部にある人口10万人ほどの都市である。知らない人はぜひGoogleなどを用いて調べてみて欲しい。
「ふんふふーん」
その宜野湾市の南の方に位置する「大謝名」のアパートの1室で、張り切って外出準備を整える女の子がいた。
鏡の前に立ってメイクをして、青みがかった銀髪を整えて羽を模ったヘアピンで固定する。
「うーん何着て行こう」
彼女にとって外で友人と遊ぶのは今日が初めてのこと。気合が入ってしまうのも致し方ない。
(夏らしくワンピースがいいかな、半袖パーカーを着るのは……ちょっと暑そう)
色々と迷った末に彼女が選んだのは、可愛い天女の刺繍が入った裾出しシャツと、水色スカートの組み合わせだった。
鏡を見た彼女は両手でガッツポーズ。
「よしっ! おっとと申請を忘れるところだった」
「外出申請」。それは彼女が外出するために欠かせないもの。ノートPC型の端末を開くと、必要事項をカタカタと入力していく。
「えーと、行き先は『浦添市のパルコ』。目的は『遊びに』。備考に『浦添さんと同行』、っと。こんなもんでいいかな」
送信ボタンをクリックし、ノートPCを勢いよくパタンと閉じる。
そして大きく背伸び。
「ん~ッ! ふぅ」
最終確認は持ち物だ。水色のショルダーバッグを開き、1つずつ点検していく。
「スマホよし、財布よし、OKICAよし、タオルよし、モバ充よし、メイクポーチよし、折り畳み両用傘よーし。完璧」
こうして彼女――宜野湾 天羽は真夏の沖縄へと繰り出すのだ。
「いってきまー……めっちゃ暑い……」
今は7月の中旬。端的に言ってクソ暑い。アパートの裏手に生えている木々からは蝉の声がミンミンミンミーンと鳴り止むことを知らない。
「ああ、せっかくメイク頑張ったのに……」
この暑さでは額から汗が噴き出ることは避けられないのだ。
「嫌だああああクーラーから離れたくないいいいいい」
とはいえ、うだうだしてては友人との待ち合わせ時刻に遅れてしまう。
「……行くか」
天羽は覚悟を決めて部屋を後にした。
「ええっと……バスってこれで合ってるのかなあ」
スマホで調べたところ、使える路線は「61番・前原線」。目の前にある「中大謝名」バス停から直接1本で目的地の「サンエーパルコシティ」まで向かうことができる。
ところが問題は――
「1日2本しか走ってないの!? ええ! 逃したら終わりじゃん」
時刻表に書いてある中大謝名の出発時刻は7時XX分。現在は……その2分前。
「やっば、急げー!!」
バスに乗り遅れまいと朝から青銀色の髪を振り回して全速力で走る少女。
(沖縄のバスは絶対に遅れる! 数分くらいなら、数分くらいなら!)
こうしてバス停に辿り着いたのは出発時刻の10分後。無論、バスは既にバス停を発車した後。
「クソォォォォ! ……ってアレ、あの向こうにいるの『61』って書いてない?」
だが、彼女は幸運だった。バスは「大謝名交差点」という悪魔の渋滞スポットに見事にハマっており、バス停の先から全く動けていなかったのだ。
こうして、彼女は無事に次の「大謝名」バス停で目的のバスに乗車することができましたとさ。
「涼し~!」
そう言いながら座席の背もたれに思いっきり体を預ける天羽。
沖縄特有のガンガンに効いたエアコン。その冷風が彼女の火照った体を直撃し、急速に冷やしていく。最初はその感覚が心地良いものだ。でも、そのまま汗を拭かずに放置すると……。
「さ、さぶい……」
彼女のようにガタガタ震えることになる。最悪、腹を下す。沖縄で最も気をつけるべきはこの寒暖差だ。
天羽はバッグから急いでタオルを取り出した。
バスの中に何人か居るけど立ち客はいない。
(後ろの方だし、横並びの席だから誰にも見られないよね)
そう考えた彼女は、思いっきりシャツを捲ってお腹や脇をぐっしょり濡らす汗を拭きとった。
「よし、さっぱりした」
バスは暫くすると西海岸道路に入る。
「わぁあ」
天羽の視界に絶景が飛び込んできた。
西海岸道路は正に海の上を走る道路。バスの窓から見えるのは朝日に照らされてキラキラと光るエメラルドグリーンの海だった。
逆光ではあるが、それでも目の前に広がるこれを絶景と呼ぶことに異議は出ないだろう。
「凄い……やっぱり海は綺麗!」
橋の上からの絶景を見た天羽は、まるで自身が天女になって海の上を飛んでいるかのような錯覚を覚えるのだった。
文中に出てきた場所のストビューを貼れる時は貼ろうと思います。
・中大謝名バス停
https://maps.app.goo.gl/vAvg6e3LRLtyBz959
・西海岸道路
https://maps.app.goo.gl/QiVNhhZWG3NmQkDS8




