第3話「あはは、寝坊したさー」
「で、待ち合わせ時間より2時間も早く着いちゃったってわけね」
汗ダラダラでベンチに横たわる天羽を見下ろす少女の名は浦添 日和。
「だって今日初めて自分で調べてバス乗ったんだもん。行ける系統が幾つもあるなんて知らなくて」
「調べてあげようかーって聞いたのに」
この子は宜野湾市の1つ南隣に位置する「浦添市」――その「安波茶交差点」近くに住んでいる。
明るい橙みを帯びた金髪ショートカットで、太陽を模したヘアピンを着けている。
アイボリーの開襟シャツに鮮やかな青緑のショートパンツ、靴は白のスニーカー、ベルトは紅型風の派手なやつ。見るからに快活な女の子だ。
だが、彼女は初っ端からジト目で天羽を見下ろしていた。
「だってだって~、初めてのバスは自分で調べたいじゃん~。それに、グチグチ言ってるけど日和だって」
「ギクッ」
天羽の言葉に日和は気まずそうな表情を浮かべる。
「30分も遅刻してきたでしょ」
「良いじゃん! ウチナータイムってのがあるでしょう!?」
「はいはい、初めて2人で遊ぶってのに遅刻してきた言い訳がそれですかー」
暑さでダウンしているにも拘らず、口だけ達者な天羽はやれやれとベンチの上で首を横に振る。
「分かったってばー、ごめんなさい!!」
「もう、仕方ないなー」
沖縄でプライベートの遅刻はよくあること。天羽もそれは分かってる。口を尖らせたのは冗談だ。
「それで、なんで遅刻したの? 渋滞とか?」
「あはは、寝坊したさー」
「絶対に許さん! 殺す」
ガバッと起き上がり、そう言って日和をポカポカと叩く天羽。
沖縄人は気軽に死なすと言うからね。驚かないようにしましょうね。
「あはは、元気になった?」
「それなりに」
「それじゃ、行こっか!」
2人が今いるのは「サンエーパルコシティ」。沖縄県内で1、2を争う大型商業施設だ。ユニクロや無印といった身近な店から、様々な県外ブランド、県内ブランドがテナントとして入っており、地元民、観光客問わず様々な人が多く訪れている。
今日は夏休みが始まった頃合いというのもあり、多くの地元の家族連れや中高生がこの場所に集まっていた。最大の目的はもちろん、冷房である。
「どこから回ろうか」
とはいえ、せっかくのモールで何も見ないというのも勿体ない。エスカレーター横に館内図を見つけた天羽は、そう言いながら駆け寄っていく。
「こういうのって適当でいいんじゃないの?」
「そうかも知れないけど……あっ」
天羽は見つけてしまった。
「1階に工芸品売り場があるよ!」
「それって観光客向けのやつじゃん……絶対高い――」
「行こ!」
「お、おう」
こうして、2人の初めてのウィンドウショッピングが始まったのであった。
――――――――――
1階の工芸品売り場。ここには様々な県内ブランドが集まり、小物やアクセサリーといったお土産品を売っている。ただ、これに惹かれるのは観光客だけではない。
「わああこの琉球ガラスのコップ、綺麗~」
天羽のように、地元民でも案外見ているだけで楽しかったりする。
「これ幾らなんだろ……ぇ……」
ただし、漏れなく観光地価格なので手は出しづらい。見て回るのが無難だろう。
「見て見てー、こっちには焼物があるよー。シーサーだ、可愛い!」
日和の目の前には沢山のシーサーが並べられている。
シーサーはオスとメスの対になっているのが基本だ。口を開けている方がオス。
2人の目の前に並んでいるのはメスが水色、オスが橙色の可愛らしいものだった。
「なんだか私たちみたいだね」
「おい、私がオスだって言いたいんか?」
「ち、違うさ……」
値段は……小さいので1000円くらい。これくらいなら2人でも買えそうだ。
「お揃いで買っちゃおっか」
「いいじゃん」
こうして、2人はお揃いのちっちゃなシーサーを購入したのだった。
「へへっ」
「ひひっ」
――――――――――
「お腹空いたぁ」
13時、流石にお腹が空いてくる頃合いだ。
「へっへっへ、天羽ちゃん。いい店があるよー」
ニヤニヤと笑う日和に連れてこられた場所は――
「ここは……!」
「『珈琲待夢』だ!」
「知ってる」
「え」
珈琲待夢。それは沖縄のサンエーというショッピングモール内にのみ存在する喫茶店である。
沖縄県民の主観だが、ここは観光客が入らないから大体空いているし、落ち着ける店なのだ。
「だって宜野湾にもあるもん」
「あー、そう」
そう言いながら揃って入店。もちろん待ちはなし。お昼時だというのにすぐに座れた。
「珈琲待夢といえばこれしかないさ」
「これしかないよねー」
「「日替わりランチ!」」
スープ、ドリンク付きで1200円。安くて美味いのがここの日替わりランチだ。
「今日はスパゲッティだー!」
「美味しそー!」
今日のメニューでキャッキャしている2人。こうしてみるとただの女子高生にしか見えない。
「飲み物何にする?」
「私オレンジジュース!」
「私は……ウーロン茶にしようかな」
ここで日和の目がキラリと光る。
「デザートいっちゃってもよろしいかねー!」
実は、プラス120円でデザートを付けることもできるのだ。
「やめといたら? だってオレンジジュース飲むんでしょ」
「へへへ、これくらいたまになら問題ないさー」
「そう、私は止めたからね」
「じゃ、ピンポン押すよー」
それからしばらくすると、頼んだ日替わりランチが運ばれてきた。
それを2人は美味しそうに頬張るのだった。
・安波茶交差点
https://maps.app.goo.gl/yw7EJbVeBzuq7u166
・サンエーパルコシティ
https://maps.app.goo.gl/FcW2CdszC5neNB7G7




