九話「デュアル・ドロップ」
ヤマノトオル…厄介ですねぇ…シブキくんにはここで勝ってもらう「物語」になっているのですが…
仕方ない。強硬手段に出ますか。
フィーバーカジノ。量産型メカブシドー。「最後のパーティー」です。
私には絶対に負けられない理由があるのですから。
作り物のヒーローたちがチェス盤の上で争ってるのに…ハエが混じり込みましたか。
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「ねぇ〜。動く気力すらもなくなっちゃったんですか〜?」
きつい。かなりきつい。
攻撃は全て避けられる。アーマーは再生成した瞬間潰される。プリズムコアが握り潰されるのも時間の問題だろう。僕の勝ち筋が全く見えない…。
サンダーナイトは「雷の直線」、ツッタンリズムは「指揮棒」と言ったモチーフからの連想が出来たのに…「コイツのモチーフって何だ…?」と考えることすら相手の手のひらの上だと思う。
じゃあ対症療法と行こう。
こちらが強くなればいい。
水滴というモチーフをさらに鋭く…鍛錬して…硬くて…強くて…カッコよくて…。ヒーローは必殺技があるもんだからね。
閃いた。
「『氷柱鉄針』!」
青くて丸みを帯びていたスーツの面影はもはやなく、スプラッシュの身体は白いトゲに覆われていた。
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「アイツ…自分の武器を捨てやがった…!」
バカ。オレの教えを忘れたか。
サンダーナイトは真っ黄色の頭を掻く。
「抜け毛落ちてるわよ…。」
余計なことを言うレースクイーン。そんなこと言ってる場合じゃないだろ。
「だぁってぇ!こっちが考えたってテレパシーがあるわけじゃないし〜!」
レースクイーンは長い茶髪を振りながら駄々をこねる。
答えを知らなかったら反省すらもできないじゃないか。考えるのが大切なんだサイバーファイトは。お前は反省して成長したことはないのか?とレースクイーンに尋ねる。
「アタシ、『オールドロップ』考えてから負けたことないわよ。」
これだから感覚派は…。ん?そこにヒントがあるんじゃないか?
「『オールドロップ』の誕生経緯を教えてくれるか?」
オレはホワイトボードを引っ張り出し、スラスラと書き始めた。
「なによ。アタシまたなんかやっちゃった?」
満面の笑みでレースクイーンがおまんじゅうをつまむ。
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で、意気揚々と考えた「『氷柱鉄針』」だけど、結果は散々。
「こんなんで痛がると思いました?むず痒いくらいですねぇ!」
とか言って山野徹はお構いなしに握り潰してアーマーにヒビがはいる。
でも「必殺技で拡張する」って方向性はいいと思うんだけどな…。
頭の中のサンダーナイトが「お前の方向性を見失うな!」と叫んでる気がする。
針を何本も折られながら、必死で必殺技を考える。
今こそヒーローファンの知識をここで活かせ…!!!
考えろ考えろ考えろ…!!!
「よそ見してないでさぁ!ねぇ!」
「貴方は何のパンが好きですかぁ!?私は何も塗ってない食パンですかねぇ!!!!」
山野徹は不気味に腕や胸を手づかみして破壊してくる。一度アーマーを砕いた所にはもう無いという発想が無いのだろう。
くすんだジャージがゆらゆらと揺れる。
相手のプリズムコアは目前にあるのに攻撃も当たらない。プリズムコアは赤橙黄緑青藍紫と七色に発光して…。色が…変わる?
閃いた。山野徹に勝てる方法が。
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「『オールドロップ』の誕生経緯を教えてくれるか?」
サンダーナイトちゃんが鋭い目でこっちを見つめる。好きよ。この凛々しい目。
「えーっとね。アタシ元々蹴りがメインだったの。」
キックって避けられちゃったり当たってもプリズムコアを外しちゃったりするじゃない?
だから『オールドロップ』は「アタシの蹴りを絶対に通してやる!!!!」って強い意志を持って改良してった結果なの。全方位からタイヤの力で蹴りを叩き込む、サイキョームテキのスーパーキックよ。
サンダーナイトちゃんは真剣な顔でホワイトボードに何か書いている。
「なによ。アタシまたなんかやっちゃった?」
満面の笑みでおまんじゅうをつまむ。これこしあんね。アタシ粒あんよりこしあんのほうが好きなの。ラッキー。
「分かったぞ。山野徹に勝てる方法が。」
なにやら答えが出たみたい。
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「ここですねぇ!?」
脚のアーマーに飛びかかろうとする山野徹を目にもくれず、おもむろにプリズムコアを外す。
アーマーを狙っていた山野徹の攻撃が初めて失敗した。
「これが僕の必殺技…!」
プリズムコアを握りしめて、心の中で強く念じる。
「『中和滴定』」。
その一瞬、辺りが真っ暗になり山野徹の全てが頭の中に入ってきた。
「全て理解した。」
拳の中のプリズムコアを狙う山野徹の動きの隙を突き、膝で山野徹のプリズムコアを粉砕。山野徹は無表情で終わったんですか。と消えていった。
「『中和滴定』」とは。
自分の状態を相手の状態と完全に同じにし、相手の全てを開示する能力。
イメージとしては水滴をポタポタと垂らしてphを測る理科の実験でやったやつだ。
そう。相手の性質を水滴によって読む。
対して山野徹の能力は「空白」。バックボーンも、知識も、攻撃が当たる、避けられるという因果すらも全てが抜け落ちている。
書いてある事柄は「準決勝で渋木と当たるヒーロー」「ジャージ」「食パンが好き」「メタフィクションによって置かれた存在」とか基盤となる設定だけ。
まるで中身が「何者かに用意されたプレースホルダーみたいに空っぽ」。
因果自体も空白のため、精神干渉により書き換えるのもたやすい。
僕はガラスペンのインクで何も書いていない性質欄に「膝攻撃に弱い」と書き込んでやった。
そして、一直線に飛んでくる山野徹の攻撃を利用して、胸のプリズムコアに一撃を叩き込んだ。もちろんこれは因果が空白の「山野徹」特攻攻撃。他の相手が相手なら書き込む隙間はないだろう。
ガチャリと控室のドアを開けると、「決勝進出おめでとう」という文字とともに、浮かれた格好のサンダーナイトとレースクイーンが待っていた。




