六話「別れ」
「あー、うん、分かったわ。アンタらじゃなさそうね。」
あんなに激怒していたレースクイーンも呆れた顔でこちらを見ている。
僕の後ろにはホワイトボードで事実関係を必死に説明する金子とオレが保証するからここはどうにか怒りを収めてくれと土下座するサンダーナイト。
こんな姿を見たらレースクイーンも呆れるよそりゃ。
もはや僕が情けないって。
「えっと…犯人候補の僕が言うのもなんだけど、まずは情報収集からじゃない?」
言いづらい空気の中、まずは口を開いた。
『プリティーキューティーフルーティー!』
『喉のつまりにはご用心!魅惑の飴玉!』
『ミセスオールキャンデー!!』
ミセスオールキャンデー。
可愛らしい魔法を使った遠距離攻撃のスイートモードと刺々しいインファイトスタイルのサワーモードをコロコロと切り替える2WAYヒーロー。
最近デビューしたのにかなり人気のヒーローで、特にサワーモードで一人称が「俺」になって真っ青なジャケット風のデザインになるのがカッコ可愛いんだよね。スイートモードだとピンク色のお姫様みたいな電脳甲冑だから。
プリズムコアはスイートモードの時はティアラ、サワーモードの時はキャップだね。
『キング・オブ・ゴージャス!』
『無理なバクチも大当たりィ!』
『成金ヒーロー!フィーバーカジノ!』
フィーバーカジノ。
コインを操る金髪グラサン金ピカスーツ、真っ黒な日焼けにごっつい肩幅の黄金ヒーロー。
ファンからの愛称は「金メッキ」。本人も受け入れてるみたい。
このヒーローも最近デビューしたヒーローなんだけどかなり人気が高いんだよね。
電脳甲冑も黄金の星とコインがいっぱいついたキラキラスーツでカッコいい。戦闘スタイルは爆発するコインをいっぱい飛ばす感じかな。
プリズムコアはポケットの中のコイン。
『えっなんですかこれ。』
『インタビュー?遠慮します。』
『名前?山野徹です。』
山野徹。
まさか本名そのまま…とかじゃないよね?
この前も言ったけど、電脳甲冑は露出した胸のプリズムコアとジャージだけ。
一番謎が多いヒーロー?なの?
「ってことで全員の整理が終わったわけだけど。」
「まだ終わってないわ。スプラッシュ、アンタ自身よ。」
え〜?
え、えーっと…
『謎の制服中学生!』
『新進気鋭の若き水滴!』
『いつでもフレッシュ!スプラッシュ!!』
スプラッシュ。
僕のヒーローネームだ。
端から見たらどう映ってるのか知らないけど、きっと山野徹と同じくらい謎な存在に見えてる…んだろうねレースクイーンの反応を見るに。
ファイトスタイルは回避中心で相手の隙を突くタイプ。自分で言っててちょっと恥ずかしいけど。
電脳甲冑のオーダーはしてないけど、青い水滴があしらわれたデザインになってた。拾った僕が使うことがまるで定められていたみたいに。
プリズムコアの位置は丹田のベルト。
「拾った?いつだ。」
金子が急に怖い顔で尋ねてくる。
あちゃ、言っちゃってたか。
「いつって…大会参加の前日だけど…。」
しどろもどろになって説明する僕の頭に金子のゲンコツが飛んできた。
「お前パス拾ったんだろ。アレは元々俺のものだ。親父から貰ったんだがテキトーに学校の裏門から捨てといたんだが…。まさかお前が拾って、そして参加までしてるとはな。」
ちょ、ちょっと待ってよ。なんで親からパスがもらえるの?
「もういい。俺は見捨てる。知らないからな。」
金子はプンプンと怒って荷物をまとめ、控室から出ていってしまった。
まさかこれが生前の金子との最後の会話になるとは思ってもなかったのに。
ーーーーー
もしやと睨んでいましたが…。スプラッシュ君には金子の坊やが絡んでいましたか…。
「処理」するしかない…ですね。
私の髭もそういっています。
なんてったって、私はプリズム杯の主催…すなわち「私が理」ですから。
ーーーーー
分かってるよ。俺だって。ワガママだって。
じゃあパスを捨てなきゃよかったのか?我慢して俺が大会に参加すればよかったのか?
俺は嫌だ。神事を行う側の人間として、「処刑人」の一族として、サイバーファイトの参加者の末路は嫌というほど見てきた。あんなのは嫌だ。
エゴが消えた植物人間にも、勝ち続けた結果エゴが暴走して人間じゃなくなってしまった化け物にもなりたくない。
でも、渋木がそうなるのはもっと嫌だ。
やっぱり戻ろう。俺の頭が固かったって謝ろう。そして…。
「お前は誰だ。」
後ろの怪しい気配を感知してとっさに人造プリズムコアを構える。
「「「拙者、量産型メカブシドーと申す。金子殿のお命、頂戴致す。」」」
黒光りする電脳甲冑共の大群がご丁寧に礼をしてきた。
「やってみろ、やれるもんならな。『着装』。」
純白の猫のようなアーマーに身を包む。
敵の物量が多く、目的も今回はプリズムコアの破壊ではなく殺害だ。
勝てる気はしないが、渋木たちの時間稼ぎくらいはできるだろう。あとは任せたぞ、渋木。いや、「スプラッシュ」。
最後くらい、アイツに倣って名乗ってやろう。
「今から俺は『ホワイトキャット』。お前の骨も差し出しな。」




