四話「水色のハーモニー」
「わかってたけど…!こんな小手先のメモ通用しないってことくらい…!!」
スプラッシュ、こと僕は青い仮面の下で、脂汗をかいていた。
「ツッタンリズムはリズムという概念が形になったものだ。だから『タイミング』を合わせないと攻撃が通らない。それが彼の戦術。具体的には『最後の拍』だな。わかるか?」
サンダーナイトに教わったことが脳裏によぎる。その時は要するにリズムゲームってことでしょ!と納得し金子にそう簡単なもんじゃないだろと言われていたが。
金子の言う通りだった。そう簡単な物じゃない。
「~♬」
「来るッ!」
タン。 タン。 タン。
「ここッ!」
タタン。
来ることは分かってる。攻撃は避けれる。コアの位置も知ってる。でも間合いに入るころにはもう「最後の拍」がずれている。
拍子も攻撃のたびにズレてメドレーみたいだ。杖のような指揮棒の先に埋まっているコアを睨むことしかできない。この届かない感覚。悔しい。
「♪。」
ツッタンリズムの周りの空間が暗くなっていく。必殺技で決めるつもりみたいだけど…。
「『コンサート/ワルツ』」
ツッタンリズムが初めて喋った。
ーーーーー
「なあに。アイツなら行けるさ。」
サンダーナイトが控室で紅茶を飲んでいる。
俺が気が気でないのを知ってか知らずか優雅な野郎だぜ。紅茶って。前は炭酸飲料のCMに出てたくせに。
「で、アイツは金子の坊ちゃんのなんなんだ?手駒…だったりしてな。」
サンダーナイトが皮肉っぽく言う。
は?渋木が手駒な訳ないだろ。小学校の頃からの付き合いの長い親友だ。
「大事な親友だ。生憎友達は多いんでな。お前とは違って。」
「なんだと…?」
紅茶の入ったティーカップをいったん置くサンダーナイト。どうした?やんのか?
「なあんてな。中学生相手にいちいちマジギレしてどうするんだか。」
ムッとした反面、少し胸をなでおろした。
「おい、どこまで知ってる。サイバーファイトについてだ。」
この際に俺は前から気になっていたことを聞いてみた。
ーーーーー
僕の分析した「コンサート/ワルツ」の能力は3つ。
①メロディーに合わせて動くと敵味方問わず身体能力が向上する結界を展開する。
ゲームで言うと「タイミングを合わせたらクリティカル」になるみたいな感じだ。
これはたぶん思考でもそう。「三拍子」という概念に乗っているからスピードアップしてる。僕は「ワルツ=三拍子」というタイトルと流れてる曲のテンポから能力が3つと推測したけど、きっと当たっているだろう。直感だけど…。
②そのメロディーはツッタンリズムも自由に変えることはできない。
さっきまでの「タイミングによる無敵」とは違ってツッタンリズムも変える様子がない。
相手をリズムで絡めとる戦法をあれだけしていたツッタンリズムがリズムを変えないということはきっとそういうこと。
「フレキシブルじゃなくなった代わりにバフも大きい」って感じだろう。
③…はまだ分からない。
いや、正確には「隠している」。
きっとツッタンリズムのとっておき、「切り札」があるんだ。
「~♪」
ツッタンリズムは考えを遮るように音符を飛ばしてくる。
避けるので精一杯だったさっきまでとは違い、今度は相手の間合いに滑り込める。ここで杖の先にパンチを入れられれば…!
「『コンサート/ワルツ』『第二楽章:リテヌート』」
僕の体はズシンと重くなり、言うことを聞かなくなった。
ーーーーー
「ニンゲンになりたい」
これがボクの願い。存在意義。原動力。
ツッタンリズムは指揮棒を振りながら、己が何故サイバーファイトのヒーローとなったかを思い返していた。
概念に人格が芽吹いた存在である彼にとって、毎日が新鮮だ。
息を吸ってマナというエネルギーを取り込むのも、音を食べて生きるのも、もちろん同期のみんなと飲みに行くのも。
しかし最近は負けてプリズムコアを作り直すたびにこの願いがだんだんすり減っているように感じる。
もし、自分の原動力である願いがすり減っていってしまったらどうなるのだろう?完全にすり減っていってしまったらどうなるのだろう?
考えるたび不安で仕方ない。いつしか「ニンゲンになりたい」という願いですら上塗りされていった。トラックの音にかき消されるメロディーのように。
ツッタンリズムはその不安を無くしたいがために、願いを叶える結晶で「不安のない毎日」を願うために、このプリズム杯に参加した。
だから負けるわけには行かないのだ。
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どうするどうするどうするどうする。頭を回せ渋木双。
「音楽」というモチーフから③が「楽章が進んで能力が増える」という可能性をなぜ考えなかったんだ僕は。思い返してもしかたないけど。
「俺ですら見た事ないが、彼は多彩な能力を持っている…らしい。この前のサシでランチに行った時に自慢された。具体的には営業秘密で教えてくれなかったがな…。」
サンダーナイトの特訓中の言葉を思い出す。だから無防備に近づくな、と金子も言ってたような気がする。
「遠距離で戦う者がなぜ遠距離で戦うのか?」
今なら答えがわかる。「近距離に近づけないくらい強いから」だ。
「♪♬♪?」
全身を音符が囲む。動けない。回避が主戦術の僕にとって、避けられない攻撃は命取り。そしてこの「メロディーに合わせて動くと敵味方問わず身体能力が向上する結界」という都合上動けない状況は絶望的に近い。
「情報は教えた、トレーニングも最低限はした。後はお前の発想力だ、スプラッシュ。」
サンダーナイトの教えもこれまでかな…。
「なんてね。」
腕で三角形を描きながら杖の先にパンチを入れる。なぜ重力空間で動けたかって?
指揮棒の振れないコンサートなんてないから指揮なら動ける。「指揮者」が固定されてたら危うかったけど。
そして三拍子なんだから学校で習った三角形の指揮。杖の動きも簡単さ、音ゲーだったらPERFECTだね。
フィナーレを奏でられずに消えていくツッタンリズムの顔にはエフェクトか涙か分からない輝きが灯っていた。
やっと下書き保存のやり方が分かりました。やったね。




