史上最強のアルバイト
大変お待たせいたしました!第4話の更新です。
前回のラストでシラ師匠から突きつけられた「半年以内に煉獄竜を倒す」という過酷な試練。
名前を失った少年『赤白の迷い坊』とサナは、地球の科学知識を武器に、この理不尽な世界をどう攻略していくのか。
ここから物語が大きく動き出します。ぜひ最後までお楽しみください!
シラ師匠の修行と日雇いバイトの日々が始まって半年が経過した。
バイト生活の最初の頃は大変だったが、数日で自分の頭脳で能力を使いこなせるようになりタスクをこなしていけたし、最近は師匠からは能力を使わない剣術を教えられるようになって、あとは筋トレをしろと言われて頑張っている。
言語に関してはほとんど覚えた。
「おい、迷い坊。それにサナ、お前たちが半年間、我がメルル村の酒場で地獄の修行に耐えたのは認める。だが、ここから王都までの道中は化け物だらけだ。今日はお前たちが『死なずに王都へ辿り着ける実力があるか』を確かめる日だよ。これが終わったら、お前たちが目指す『マレストラ王国』の王都へ行く許可をやる!」
そう言って、この村の酒場の店長であり、俺の剣の師匠でもあるシラは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて一枚の羊皮紙をテーブルに叩きつけた。そこに書かれていたのは、普通の冒険者ギルドなら国家転覆レベルの大騒ぎになる、文字通りの『無理難題』のリストだった。
1.魔石鉱山の消えない暴走火災の鎮火。
2.村の命の泉に混ざった猛毒の魔力の完全浄化。
3.爆発性の魔結晶を、衝撃を与えずに王都の手前まで半日で運ぶ超スピード配達。
4.そして、フォラステロの深林に巣食う『煉獄竜』2頭の討伐。
「……シラ師匠、これ日雇いバイトの領域完全に超えてないですか?」
俺が苦笑いすると、隣にいた西暦2109年の地球からの転移者、サナが呆れたように肩をすくめた。
「同感。異世界の労働基準法はどうなってるのよ。普通なら熟練のクランが数ヶ月かける内容よ?」
「へっ、魔力が少ないお前達でも私の修行を今日まで耐え抜いて来たんだ、これくらい朝飯前だろ? 期待してるよ、私の可愛い弟子たち」
シラはそう言って、俺の背中をバシッと叩いた。普通の地球人なら、この異世界に転移して魔力が体に適応するまで10年はかかる。だから、みんな奴隷にされるか実験体にされる。だが、俺には『属性ガチャ』で引き当てた特別な「水属性の力」がある。
そして、俺たちの脳内には西暦2109年の最先端の科学知識がある。
「よし、サナ!ちゃっちゃと終わらせて王都へ行こう。俺たちの物語の第1章を、こんなところで停滞させるわけにはいかないからな」
「はいはい、人生の主人公さん。データ分析は任せて」
――そこからは、メルル村の歴史に刻まれるレベルの『超スピード無双ラッシュ』だった。
鉱山の消えない魔石火災には、ただ水をぶっかけるのではなく、空気(酸素)を遮断するように水魔法でドーム状の壁を作り、一瞬で「窒息消火」させた。
村の猛毒の泉では、2109年の純水装置(逆浸透膜)の仕組みを脳内で強くイメージし、水魔法の精密コントロールで毒の成分だけを綺麗に分離抽出してみせた。
爆発する結晶の運搬にいたっては、水魔法で崖沿いに臨時の「水の高速滑り台」を創造し、サナと一緒に水流に乗って、無振動かつ驚異的なスピードで配達を完了させた。普通なら数ヶ月かかる無理難題を、俺たちは地球の知恵とガチャの力で、わずか数時間で片付けてみせたのだ。
「残るは最後のタスクね、赤白くん!」
フォラステロの深林の奥深く。サナが2109年のガジェットの数値を睨みながら、鋭い声を上げた。
「――来るよ。前方に熱源2。ターゲット、『煉獄竜』!」
不気味に立ち込める霧を切り裂き、深紅の鱗をまとった巨大なトカゲ――ドラゴンが2頭、咆哮を上げながら俺たちの前に姿を現した。
「右から来るよ、赤白くん!――『サーモグラフィ、起動』!」
サナが叫びながら、俺が作った地球の知識を元に作り上げた小型ガジェットの起動スイッチを押す。画面に映し出されたのは、鬱蒼とした霧の向こう、真っ赤な熱源となって猛り狂う2頭の『煉獄竜』の姿だ。
「よし、サナ。敵の熱探知をハッキングする。」
「了解。攪乱用の煙幕展開――今!」
サナの指示と同時に、俺はガチャで手に入れた特別な水魔法を発動させた。ただし、ただの水を出すんじゃない。ドラゴンの周囲の空気を一気に水蒸気で満たし、強烈な温霧を発生させる。2頭のドラゴンは視界だけでなく、自慢の熱感知能力まで完全に狂わされ、お互いを敵と勘違いして牙を剥き合った。ギャアアアアッ!凄まじい轟音と共に、ドラゴン同士が激しく衝突し、自滅していく。
これぞ2109年の科学知識と魔法のハメ技だ。
「……う、嘘。魔力が……底を尽いた……?」
だがその直後、視覚データの維持に脳の全エネルギーを使い果たしたサナが、グラリと体勢を崩した。地球人が異世界の魔力に適応するには本来10年かかる。限界を超えてガジェットを回したサナの体は、すでに限界だった。
「よくやった、サナ。あとは任せろ」
俺は倒れ込むサナを左手でしっかりと抱きとめ、前方を睨みつける。同士討ちでボロボロになった2頭のドラゴンが、怒り狂ってこちらへ突進してくる。
「ガチャの力が、ただのチートだと思うなよ……。喰らえ」
俺は脳内で、現代の超高圧ウォーターカッターの仕組みを極限までイメージした。ただの水流じゃない。限界まで圧縮し、分子レベルで研ぎ澄まされた超音速の水の刃。
ちなみに俺のお得意の攻撃!
「――『ハイドロ・プレッシャー』!!」
激しい風切り音と共に放たれた極細の水刃は、ドラゴンの鉄より硬い鱗をバターのように容易く切り裂き、2頭の巨体を一瞬で一刀両断した。地響きを立てて崩れ落ちる巨体。勝負は、一瞬だった。
◇その夜。俺は気絶したサナをお姫様抱っこしたまま、懐かしいメルル村の酒場へと帰ってきた。静かに部屋のベッドへ彼女を寝かせ、毛布をかける。一息ついて一階の酒場へ降りると、カウンターでシラ師匠が静かに酒を飲んでいた。
「……終わりました、師匠。タスクは全部クリアです。」
テーブルにドラゴンの魔石を転がすと、シラはそれを見つめた後、ふっと優しく目を細めた。
「お前、本当に成長したね。……まさか、本当にあのタスクを一日で終わらせちまうとはね」
シラは酒杯を置き、真剣な目で俺の目を見た。
「坊や。お前は私を超えていくよ。きっと、誰よりも強くなれる」
その言葉は、無理難題を押し付けてくる人の元でバイトをして始まったこの異世界生活の中で、何よりも熱く俺の胸に響いた。
「それとそろそろあんたに名前が無いとねぇ、いつまでもあだ名で呼ぶのが申し訳なく思えてきたよ…。」
「名前…ですか….確かに名前は欲しいです。」
◇翌日。俺とサナは、シラに見送られてついに『マレストラ王国』の王都へと足を踏み入れた。白い壁とオレンジ色の屋根が広がる、美しい南欧風の都。目的は、お姉ちゃんを探すための「世界地図」を買い求めることだ。
「まずは大きめの本屋を探そうか、サナ」
「そうね。でもさ、なんか周りの視線が……」
サナの言う通り、すれ違う人々や、巡回中の騎士たちがなぜか俺の顔を凝視してくる。いや、正確には俺の「髪の色」を見ている。(しまった。地球人の髪色は、この国では目立ちすぎる上に、最近起こったこの国の暴動事件のせいで……!)
「おい、そこの若者。止まりなさい」
カチャリ、と重々しい甲冑の音が響く。振り返ると、鋭い眼光をした王都の騎士たちが、すでに俺たちを包囲していた。
「貴様から不思議な魔力を感じる……大人しく同行してもらおうか!」
「待って、どういうことだ!」
弁明の余地もなく、俺はそのまま拘束され、サナと引き離されるようにして連行された。終わった、と思った。冷たい地下牢に放り込まれるのだと覚悟した。だが、騎士たちに連れ出された先は、きらびやかな漆喰と青いタイルアートに彩られた、豪華な王の屋敷の一室だった。
部屋の最奥、最も高い上座に置かれた椅子に、その女性は座っていた。光を反射してきらめく、美しい金髪。一国の最高権力者としての圧倒的な気品。けれど、その顔を見た瞬間、俺の脳内に半年前の記憶が激しくフラッシュバックした。転移してすぐ、メルル村の薄暗い酒場で、酔っ払いに絡まれていたあの金髪の女性――。
(……ん? うそだろ?)
(もしかして、この偉そうな王女様……あの時の、酒場にいた人か――!?)
第4話まで読んでいただき、ありがとうございました!
ついに王都へ乗り込んだ主人公ですが、まさかの連行……そして目の前には第1話のあの金髪の美女が!? ここからお姉さんの行方に迫る新章が迫ります!
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