待機
部屋は静まり返った。
残された者たちは、ただただ、レイノルズの言葉を信じて、そこで待つことしかできなかった。何もせずにただ待つだけ…というのも、精神的に辛いものがある。
気付けば太陽はもうすぐ真上に位置するところだった。パーティは昼から開催される。まもなくだ。
「昼食にしましょう。」カイリが切り出した。
「実はクリスガルド公爵夫人から、軽食をお預かりしております。」その言葉に、皆の顔が、ホッと緩んだ。
『お母様、さすがだわ。でも…料理長のヨハンは、いったい早朝何時に起こされたのかしら…』ラーナがヨハンの心配をしていると、ドアからノックの音が聞こえた。
一瞬全員がビクッとなり、同時にケビンとノーランが剣を構え、ドアの側に立った。
「ラーナ、私よ、メルリーナよ。」
その声を聞いて、皆が一斉に力の入っていた肩を落とした。ドアが開いて、メルリーナとフィルが入ってきた。メルリーナはきれいな黄色のドレスに身を包んでいた。
「メルリーナ様、お綺麗です!」ラーナがうっとりして言うと、
「うふふ、当然ですわ!私ですもの。」と返ってきた。ラーナは思わず吹き出してしまった。
「今から…行って参りますわね。その前に伝えておこうと思いましたの。」メルリーナは真剣な眼差しでラーナを見て言った。
「いいこと?渡したドレス、ちゃんと着て待っているのよ。」
「…でも、私は…」ラーナが言い淀んでいると、
「だいたいのことは耳に入ってきましたわ。でも、もしレイノルズを信じてくれるのなら、ドレスを着て待っていて欲しいの。」と、ラーナの手をギュッと握って、メルリーナが言った。
『メルリーナ様にも、何か考えがあるのかもしれない。』そう思い、ラーナは、
「わかりました。準備して待っております。」と答えた。それを聞いてメルリーナは安心したようだった。
「メルリーナ様、そろそろ向かわれた方がよろしいかと。」フィルの声に、メルリーナも、
「そうね、参りましょう。」と言って、再度ラーナを見た。
「いってくるわね。」
「はい、いってらっしゃいませ!」と、ラーナは笑顔で見送った。
昼食を食べた後、メルリーナとの約束通り、ラーナはもらったドレスを着る準備に取り掛かった。男衆が廊下と控室で待機している間、テスとハンナが奮闘した。ああでもない、こうでもない、そこは違う、こっちの方がいい、などと、ラーナの意見が取り入れられることはなく、二人の思うがままに仕上がっていった。
「ふう…。完璧です、ラーナお嬢様!」そう言って二人は非常に満足気にラーナを見たあと、男衆を呼び戻した。そしてお決まりのように、三人がラーナに呆然と見とれた。その様子を見て、テスとハンナは、フフンとドヤ顔をして見せた。
「どうかしら?」ラーナは少し照れくさそうに聞いた。
編み上げリボン越しに見える背中が映えるよう、髪の毛は高い位置で束ねられている。そして大きく肩まで開かれたネックラインからは、美しい鎖骨が現れ、その上でネックレスがキラキラと輝いていた。
「少し…露出が多いのでは…」とようやくカイリが言いかけたところに、テスとハンナが猛攻撃した。
「これくらいはなんてことありません!ラーナお嬢様の美しい素肌が映えるような仕立てになっていますので、会場の皆様は釘付けになることでしょう!」
「いや、だからこそ…」と反論したいカイリを、二人はギロリと睨んで黙らせた。
固まっていたケビンとノーランがようやく口を開いた。
「ラーナ様、お綺麗です!」ノーランの目がハートになっている。
「成人のお披露目会を……思い出します。あのときどれだけの男性が、あなたと踊りたがっていたことか…」と、ケビンがどこか切なげに言った。
すると、
「ラーナ様、私と踊っていただけますか?」とカイリが片膝ついて言った。その言葉に、ケビンとノーランが食って掛かってきた。
「ラーナ様!私とも踊って下さい!」二人は同時に申し出た。カイリがなぜか、
「私は以前、ラーナ様のダンスの練習相手をしたことがあります。ですので、私が先です。」と上から目線で圧をかけた。そして二人はその言葉を聞いて、どういうわけか、
「うっ…」と言い負かされ、一番手をあきらめた。
「さ、ラーナ様、練習致しましょう。お手をどうぞ。」とカイリがお辞儀をして、二人のダンスが始まった。その間、ケビンとノーランの二番手争いが、人知れず続いていたのだった。




