作戦会議 その三
メルリーナだった。
見ると大きなトランクのようなものを持っている。
「姉上…ノックしていただけませんか?」レイノルズがおっかなびっくり言った。
「したわよ!部屋がうるさすぎたのよ!」メルリーナがかみついた。
「人のこと言えないぞ、レイノルズ。お前もさっきノックせずに入ってきただろ?」ザラの言葉に、
「お前たちがラーナを抱えて騒いでいるから、俺のノックが聞こえなかったんだよ!!」レイノルズもかみついた。
「あら、ザラにイオスじゃない。あなたたち、一応私王女なのよ?先に挨拶にくるのが礼儀ってもんでしょ。」というメルリーナに、
「陛下と王妃、その後あなたのところにも伺ったのですよ。皆さまお忙しそうで、たらいまわしに合い、ようやくラーナの部屋でゆっくりさせてもらっていたのです。」とイオスが返した。
「ああ、そういえば…そういう時間帯だったわね。仕方ないわね、許してあげますわ。じゃあ、はい!」と言って、ザラとイオスの前に、それぞれ腕を伸ばした。
「ん?なんだ?」ザラの問いに、メルリーナは睨みをきかせて、
「なんだじゃないわよ。あ・い・さ・つ!」と、さらに自分の手をグイっと二人に押しつけて言った。
「はぁ……」二人はため息をついて、あきらめたように片膝を付き、手の甲にキスをして言った。
「メルリーナ様、お久しぶりにございます。」
「またお会いできて恐悦至極に存じます。」
「フフン、それでよろしくてよ。」と、上から目線のメルリーナは満足そうにしていた。
「姉上、それでどうかされたんですか?」レイノルズの声に、メルリーナは思い出したように言った。
「そうだわ!ラーナに用があったの。これ見て!」と、持ってきたトランクを開けた。中から出て来たのは、薄い水色のドレスだった。全体にレースがあしらわれ、ところどころにパールが光っている。胸元は鎖骨が美しく見えるよう、広く肩まで開いていて、縁にシルバーの刺繍があり繊細な模様を織りなしている。そしてポイントは背中だ。背中部分は真ん中ほどまでVの字にパックリ開いている。肩甲骨まで見えそうだが、下から細いリボンで編み上げ、露出した肌を交差したリボンが少しだけ隠す感じだ。
『なんて美しいドレスなの!』ラーナの目はドレスの装飾のようにキラキラ輝いていた。
「ダメだ。」レイノルズが言った。
「まだ何も言ってないでしょ。」そう言ったメルリーナがラーナを向いて言った。
「これは私のドレスなの。少し前に用意したものなんだけど、タイミングがなくて着そびれていたのよ。まだ袖も通していなくて…、もったいないから明日のパーティでラーナが着…」
「ダメだ。」レイノルズが割り込んだ。メルリーナがかなりの苛立ちとともにレイノルズを睨んでいる。
そんな空気を壊すかのように、
「ラーナ!これを着て私と踊ろう!」イオスが嬉しそうに言ってきた。
「ラーナ!俺と踊ろうな!」ザラもやってきた。
「ダメだって言ってるだろ!」レイノルズが叫ぶ。そこでメルリーナが切れた。
「うるさくてよ!あなたたち、作戦会議があるのでしょう!早く移動なさい!!」
そうして男たちはしぶしぶ部屋を出て言った。
「ハァ…ハァ…まったく、男たちときたら!」メルリーナが息を切らしていた。ラーナはそんなメルリーナを見ているのが楽しくて、つい笑ってしまった。
「メルリーナ様、私、そんなきれいなドレス、お借りしてもよろしいのですか?」ラーナが尋ねた。
「あなたにあげますわ。」メルリーナの返事に、
「こんな高価なもの、お借りするのも申し訳ないのに、いただくなんてできません!」ラーナが慌てた。
「…もらってくれると嬉しいですわ。これは何もしてあげれなかった、助けてあげれなかった私からの、せめてもの罪滅ぼしと思って、受け取ってくれないかしら?」メルリーナは今にも泣きだしそうな顔で言った。
「そんな…罪滅ぼしだなんて、私……」ラーナはふるふると首を横に振った。
「あんまり言うと、言い訳みたいになって、自分を余計に嫌いになってしまいそうだから、ここまでにするわね。」メルリーナは懸命に笑顔を作った。そして、
「私とあなたは、あまり背格好が変わらないから、おそらくサイズは問題なし。背中のひもで調節もできますわ。」とドレスをラーナにあててみた。
「これを着て、お化粧して、とびきりきれいなラーナを見せつけて、あの王女にギャフンと言わせるのよ!いい?あの王女のことだから、最後まで油断できないわ。でも約束して!何があっても、このドレスを着てパーティにくるって。ちゃんと準備しておくのよ!」
メルリーナの誠実さと真剣さと、自分のことを思ってくれる気持ちに感動して、ラーナはうれし泣きしそうになりながら、コクンとうなずいた。




