それぞれの記憶
話しが終わる頃、二人の顔からは怒りがにじみ出ていた。
ずっと黙って聞いていたイオスがようやく口を開いた。眉間にしわを寄せ、目を吊り上げている。
「ラーナ………レイノルズと婚約したのですか?」
「へ?」ラーナは変な声を出した。そして思った。
『そこ!?まぁ確かに報告してなかったけど…、食いつくとこそこなの?』今度はザラが入ってきた。
「ラーナ、お前、俺の嫁さんになるって言ってただろ?」
「え!?そうだったの!?」ラーナ本人が驚いた。対してイオスが、
「違いますよ。ラーナは私に求婚したんですよ。」と懐かしそうに言った。
「は!?ラーナお前、二股かけてたのか!?」ザラが立ち上がる。
「そんなわけないでしょ。あなたの記憶違いですよ。」イオスがザラを鎮めようとする。
「俺はちゃんと覚えてるぞ!ラーナ!お前、忘れたのか!?」ザラが食いつくようにラーナを問い詰める。
ラーナは何も覚えておらず、ただ二人を交互に見て慌てていた。瞳の奥に怒りの炎を宿しつつ、三人のやり取りを見ていたカイリが割って入った。
「お二人とも落ち着いてください。ラーナ様がお二人にお会いして懐かれていたのは、おそらく12、13歳の頃だったかと。このくらいの年齢での発言は、おままごと程度のものなので、あまり気にされないほうが良いのでは……」話が終わらないうちにザラが大声を上げた。
「ラーナ、あれはままごとだったのか!?」
「ラーナ、私に求婚してきたときは、ままごとなんてしていませんでしたよね?」そう言うとイオスは、ラーナの横に行き、片膝をついて手の甲にキスをした。
「お前、何やってんだ!」と言ってザラは、さっきのように”高い高い”で、ラーナを抱きかかえてさらった。
「あなたこそ、何やってるんですか!?」イオスの声と同時に、
「バターーーンッ!!」と部屋の扉が開いた。
レイノルズだった。
怒りを露わにして、ドカドカと部屋に入ってくると、ザラからラーナを引きはがして抱きしめた。そして抱きしめたままザラとイオスを睨み、
「俺のだ。触るな。」と言って威嚇した。
「は!?レイノルズ!お前、…俺は何の報告も受けてないぞ!」ザラの声に合わせて、
「私もですよ。私たちに報告がないなど、婚約は無効にせざるを得ませんね。」イオスも同調した。
「ふざけるな!お前たちにだって婚約者がいるだろう!」レイノルズが応戦した。
一瞬、ザラとイオスがたじろいて、沈黙が広がった。
『そうなのね!なーんだ、…ん?私もその報告は受けてないわよ?』ラーナはもうあきれて、力が抜けそうだった。
イオスが沈黙を破った。
「婚約者ではありませんよ。婚約者候補です。」ザラも具合が悪そうに続いた。
「俺もそうだよ。まだ正式な決定ではない。」レイノルズが、
「フン、どうだかな。」と言って、再度沈黙が訪れた。しばらくしてカイリが流れを変えた。
「皆様、そろそろ今後の本題に入られた方がよろしい時間かと。」レイノルズの表情がピクッとひきつった。
「そうだった。二人に話しがある。いや、全員にだ。オルバー!外の二人と侍女たちも呼んでくれ。」レイノルズはそう言って、歓談テーブルに皆を集めた。




