旧友
楽しいモーニングティーの時間が終わり、皆が元の場所へと戻った。
ラーナは母が持ってきた出仕用のシンプルなドレスに着替え、その後、今日はどう動くべきか、カイリと話し合おうとしていたそのとき、再びノックの音が響いた。
サーシア国のザラ王子と、タルビア国のイオス王子だった。二人は入ってくるなりラーナを見て目を見張った。そして二人を見たラーナは、言葉よりも、考えるよりも先に足が動いていた。
「ザラ!イオス!」その言葉と同時に二人に飛びかかって抱きついていた。
「久しぶりね!また会えてすごく嬉しい!」ラーナは二人の胸に顔をこすりつけて、子犬のように喜んでいる。
ようやくザラが口を開いた。ザラは筋肉質で体格が良く、短髪でいつも日焼けして肌は茶色、髪も目も同じような薄茶色で、野性的で逞しく、一般的な”王子様”からは少し離れた感じだ。
「お前、ラーナか!?泣いて鼻垂らして、俺に剣の勝負を挑んできてたラーナか!?」
「他の言い方はない…っ!?」ラーナが言いかけた瞬間、ザラは子供を”高い高い”するように、両腕を思い切り伸ばして、ラーナをかかえ上げた。
「キャッ!」と声を上げると、ザラはそのまま回転し始めて言った。
「そうかそうか!こんなに大きくなったのか!しばらく見ないうちに、きれいになったなぁ!」テスとハンナが和やかに、カイリが睨みをきかせて見守る間に、ラーナは目が回り始めた。ようやくイオスが、
「ザラ、ラーナの目が回ってるよ。」と止めに入り、ふらつくラーナの腰にそっと腕をまわして支え、手を握り、間近でラーナを覗き込んだ。
イオスは中世的で、どちらかといえば細身の長身、色白だ。サラサラの黒髪は肩甲骨あたりまで伸びていて、瞳は珍しいシルバー色だ。
「ほんとにあの、いつも口の端に焼き菓子のかけらを付けていた、ラーナなんですね。」イオスが感心していた。
「二人ともひどい。」ラーナはむくれながら、テスたちが入れてくれたお茶を飲んだ。久しぶりの対面式が終わったあとに、三人で歓談テーブルをはさんだ。
「そう、むくれるなよ。可愛い顔が台無しだぞ。」ザラは大きく足を組んで焼き菓子を食べている。
「私たちは久しぶりにラーナに会えたことが嬉しくて仕方がないんだ。」イオスは静かにティーカップを口に運んでいた。二人とも正反対の性格だが、仲は良い。ラーナよりも数年年上だ。
「レイルには会ったの?」ラーナの問いに、
「会いには行ったんだが、何やら忙しそうで、先にこちらに案内されたんだ。」ザラが答えた。
「それにしてもラーナ、この部屋は以前のラーナの部屋ではありませんよね?」イオス鋭し。ラーナが一瞬戸惑ったのを見て、イオスが続けた。
「何かあったんですね。そしてそれは、我々が一日早く呼ばれたことと、関係がありそうですね。」イオスやっぱり鋭し。
イオスは昔からそうだ。まわりに向ける視線の鋭さが違う。瞬時にして受け止めた視界からの情報を、すばやく理解して覚える。
ラーナは、レイノルズよりも先に、自分から現状を話して良いものか考えていたが、横にいたカイリがラーナの耳元でささやいた。
「どのみちレイノルズ様からもお二人に説明があるはずです。ラーナ様から先にお話しをされていたほうが、あとでお三方が話される際、時間の短縮になるかと。ですので今のうちに聞いていただく方がよろしいかと思います。」
『なるほど、それもそうか。じゃあ先に話しを聞いてもらったほうがよさそうね。』と、ラーナが口を開いたときに、二人の様子をジッと見ていたイオスが聞いてきた。
「そもそもなぜカイリがラーナ付きになっているんだ?カイリはもともとレイノルズの側近のはずでは?」
『そうなんだけど…、それとこれとはまた別のことも関わってくるし…、そこから話し出すと長くなるし……』ラーナがもたついていると、見かねたカイリが発言した。
「私がラーナ様付きになった事情はまた別件が絡んでおりまして、こちらは大したことではないのでのちほどお話いたします。今は現状打破のために、ラーナ様のお話を聞いていただけますでしょうか?」
そうして、セシアナ王女が来てからの、長い受難の話が始まった。




