原因究明
動かさない方がいいだろうということで、ラーナは意識不明のまま王宮に泊まることになった。フィルがマシュリに、
「ラーナには私が付き添います。父上は帰られて、母上についていてあげて下さい。」と言うと、
「そうだな。ラーナを見ていると、また気が動転しそうだしな。頼んだぞ。」そう言って帰宅した。
部屋にはフィル、カイリ、テスとハンナ、部屋の外にはケビンとノーランが護衛兼見張りで立っている。
カイリが月の薬草茶を入れて運んできた。
「私が入れた薬草茶です。体力を回復させる効果があります。これまでも何度か飲まれていますのでご安心下さい。ラーナ様の口にふくませていただけますか?」とフィルに頼んだ。
「すまない。ありがとう。」フィルはそう言うと、ラーナの上半身を起こし、お茶を飲ませた。吐き出すことも予想したが、不思議と飲んでいる。カップ一杯のお茶を飲み終える頃、ラーナが目を開けた。
「ラーナ!」レイルが涙目で抱きしめた。その声に一斉に皆が駆け寄った。ラーナはしばらくボーっとしていたが、徐々に意識を取り戻してきた。
「あ…私…馬車に乗っていて…それでっ……ハァ、ハァ、ハァ…」ラーナは苦しさで胸を押さえ、肩で呼吸を始めた。
「ラーナ!?」フィルが慌ててラーナを抱き寄せた。
「テス!ハンナ!何か、袋を!紙でもいい!」カイリの言葉に、ハンナが何かを包んでいた大きめの紙を見つけてきた。カイリはそれを袋状にすると、ラーナの口に押し当てた。
「ラーナ様、大丈夫です。落ち着いて下さい。ゆっくり吐いて下さい。そうです、今度はゆっくり吸ってみましょう。」カイリの指示で、ラーナの呼吸が整ってきた。
「カイリ、すごいな…。」フィルが横で感心している。
「たいしたことではありません。昔こういった症状に対応したことが何度かあっただけです。過度のストレスや精神的苦痛によって、こういった症状が出ることがあるのです。ラーナ様は最近ずっと、身の危険を感じながら生活していたあげく、今日のような目にあいました。このようになるのも当然と言えば当然なのです。」カイリの声に、フィルはもう一度ラーナを抱きしめた。
「ラーナ、無事でよかった!」ラーナはフィルの温かさに安心したのか、ようやく落ち着きを取り戻した。そしてカイリを見て、涙目で伝えた。
「カイリ…ありがとう。あなたがいなければ、私は間違いなく……少なくともこんな状態ではいられなかったわ。本当にありがとう!」カイリはフッと優しく笑って言った。
「あなたをお守りすることが私の使命なので、まっとうできて、そしてあなたが無事で嬉しい限りです。」
馬車の事故から数時間が経ち、冬の日の沈みは早く、外はすでに暗闇に包まれていた。
ラーナが部屋を見回していると、フィルが説明した。
「ここは王宮の客間だ。ラーナを運ぶのに一番近かった部屋だよ。」同時にカイリがおかわりの薬草茶を注いだ。ラーナはそのお茶を飲みながら、恐怖心を押し殺して、あの時を振り返っていた。
『あのとき馬車は、しばらく進んだはずだ…。なぜ急に?』そんな様子を見たカイリが、
「車輪に細工がしてあったのでしょう。」と言った。ラーナもフィルも、カイリを見た。
「かといって、女性が細工できるほど、王家の馬車は簡単に作られてはいません。細工できそうなところをなんとか見つけて、何かしら仕込んでいたのでしょう。さすがに車輪外側は頑丈にできていますので、そこに細工はできなかった。そのためしばらくは走ることができたのでしょう。」
『なるほど…』ラーナは胸に手を当てて、心臓の音を抑えるようにカイリの言葉を聞いていた。そしてカイリは続けた。
「おそらく事故直後から、調査員が動いているかと。あれだけ大きな事故だったのですから、他の貴族たちも、自分の乗る馬車に異常はないか慌てたはずです。そのため王家に原因究明の要望が出ているのは必至。あのとき王宮にいた人間と、その者の部屋を強制調査するでしょう。しなければ、王家への信頼は地に落ちます。」ちょうどカイリが話し終えたあと、コンコンとノックの音がした。




