犠牲
それはパーティー開催の三日前に起こった。
ラーナは王城から帰宅しようと馬車に乗った。最近ではいつも、カイリがラーナと一緒に客室の方に乗り込み、ケビンとノーランが馬に乗って馬車の両脇をついてきてくれていた。発車して間もなく、まだ王城内で、馬車の車輪が砕ける音がした。同時に客室が大きく傾き、馬が暴れだした。カイリは咄嗟にラーナを抱きしめ、車内にある取っ手にしがみついて、外に飛び出さないようにするのが精一杯だった。御者の手腕と、両脇にいたケビンとノーランの対応で、馬を庭園の植物の方に誘導し、客室も植物にのしかかる形で止まった。
「ラーナ様!大丈夫ですか!?」カイリの声と同時に、ケビンとノーランが客室のドアを開けて叫んだ。
「ラーナ様!カイリ殿!」
ラーナは目を閉じ、返事をしなかった。カイリが珍しく叫んだ。
「医者を!!一番近い部屋に早く!!」
ラーナは城の部屋のベッドに寝かされ、医者が呼ばれた。
カイリの対処もあり、外傷はなく、急な事故による精神的ショックで、意識を失っているのだろうとの診断だった。テスとハンナがそばで泣いていた。
バターン!と音がして、父マシュリと兄フィルが入ってきた。
「ラーナ!ラーナ!」二人はベッドのそばで声の限り叫んだ。カイリが容態を説明し、少しは落ち着きを取り戻したが、二人とも怒りと悲しみで震えが止まらなかった。
また、バタン!とドアが開く音がして、レイノルズが入ってきた。息を切らせて「ラーナ!」と叫びながら、ラーナに近寄ると、
「ラーナ!ラーナ…すまない、お願いだ、目を開けてくれ!」そう言ってベッドの横で崩れ落ちた。
最後に国王と王妃、メルリーナが入ってきた。ラーナを見て黙ったままだった。そんな沈黙の中、
「婚約を、破棄していただきたい。」マシュリがぼそっと言った。
王家の全員が息を飲んだ。レイノルズは目を見開いて呆然としていた。
「ラジニア王国との友好を優先した結果がこれです。娘が自分の命を犠牲にしてまで出仕をやめず、自分が戦わなければならないと言って、覚悟を決めた結果がこれです…。満足いただけたでしょう。もう、娘を解放してやってください。」沈黙が部屋中に重くのしかかっていた。
「クリスガルド公爵、どうかお待ちください。」レイノルズがかすれる声でようやく言葉にした。だがマシュリはそれを許さなかった。
「これ以上は待ちませぬ。友好のために、王女と結婚されれば良いのです。友好も、ラーナもと欲張ることが犠牲を招いた。娘は返していただき…」
「お待ちください!!ハァ、ハァ…」息を切らせてレイノルズが叫んだ。
「マシュリ、そなたの意見はもっともだ。謝って済むことではないが、本当に申し訳ないことをした!これは王である私に全責任がある。そのため、ある意味…レイノルズも被害者なのだ。息子のことばを聞くだけでいい。判断はそなたに任せる。聞くだけ…聞いてやってくれぬか?…」国王が頭を下げた。マシュリは顔を背けて言った。
「いつまで待てばよろしいのですか?」
「パーティーが終わるのと同時にこの件も終わらせます!どうかそれまで、私に時間をください!」レイノルズも頭を下げた。マシュリはしばらく黙ったままだった。そしてようやく、
「わかりました。ただし、それまでにもう一度でも、ラーナに何かがあれば、必ず婚約を破棄していただきます。よろしいですね?」と威圧感のある声で言った。
「…わかりました。」レイノルズは安堵と悲壮感を織り交ぜた表情で返事をした。




