憎悪
各国へ送った招待状の返事が戻り、いよいよ開催日も近くなった頃から、ラーナのまわりで不審なことが起こり始めた。
数日前の朝、ラーナが出仕してきた際、階段を登り切ったところで、思い切り足が滑ってしまった。そのまま大きくのけぞり、階段を下まで転げ落ちる!というところで、後ろにいたノーランに支えられ、手すりにつかまったノーランがなんとか踏ん張り、事なきを得た。ラーナは腰が抜けたようになり、そのままノーランに抱きかかえられ出仕した。後ろからついてきていたカイリとケビンが、ノーランに向かって、自分が代わってやると言っていたが、ノーランは聞こえないふりをしていた。
調査の結果、階段の一番上にロウが塗ってあった。ラーナ以外被害者がいないことから、ラーナだけを狙い、緻密に計算されて塗られたのだろうとのことだった。
さらに先日、剣の稽古からの帰り道、上から植木鉢が落ちて来た。あと一歩先に足を踏み出していたら、間違いなく命が危なかった。落ちて来た瞬間、鉢が割れる音と同時に破片が飛び散り、ケビンがラーナに覆いかぶさり、ノーランとカイリは植木鉢があったであろう場所に急いだ。ラーナは足が震えて動けなくなり、ケビンが抱きかかえて部屋へと向かった。廊下の途中でカイリとノーランに会い、ラーナを抱きかかえるケビンを見て、二人は自分が代わるとしつこく食い下がったが、ケビンはもう少しで部屋だからと、そのまま部屋へと歩いていった。
部屋に入ると、震えるラーナを見て、テスとハンナがすぐにお茶を用意してくれた。
「誰かが故意に落としたようです。現場と思われる場所を数か所確認しましたが。どこにも人は見当たりませんでした。」カイリが言った。
「中庭から鉢がひとつ移動された後がありました。おそらく上の階まで運んだのでしょう。ただ日中あれを運ぶとなると人目につきます。夜か明け方に仕込んでいたのかと…。」ノーランが説明した。
『見えないところに凶器があって、いつそれが命中するのかわからない…。カイリ、ケビン、ノーランがいなかったら、間違いなく命を落としていた。』そう思うと、また震えが止まらなくなった。
「次は…何に気を付ければいいの…?」ラーナは涙目になって、思わず不安を口に出してしまっていた。
ハンナが持ってきたストールを肩にかけて手を握ってくれた。ノーランがたまらず立ち上がって言った。
「あんまりではないでしょうか!?犯人はほぼ確定しています。すぐに陛下にご報告するべきではないでしょうか!?」皆がグッを言葉につまった。
「ここにいる全員が、あなたと同じ気持ちですよ、ノーラン殿。」カイリの言葉に、
「だったらっ…」とノーランが言いかけたのを、ケビンが制した。
「この間カイリ殿から話があったように、証拠がない限り動けないんだ。」
「しかしこのままでは!…」ノーランが悔しそうにうつむいた。
「今、王宮の調査員たちが動いています。」皆がカイリの方を向いた。
「ここまでくるとさすがに王家も見過ごせなくなったようです。まぁ、遅過ぎますが。ノーラン殿がおっしゃったように、犯人はほぼ確定していますので、主に証人と証拠集めに力を注いでいるようです。何かしらの発見があれば、解決の糸口がつかめます。ラーナ様、もうしばらくの辛抱です。我々が全力でお守りしますので、どうか耐えてください。」ラーナは黙ってうなずいた。
「私のために、皆まで大変な目に合うかもしれない…。ごめんなさいじゃすまないかもしれない…。それでも……ごめんなさいっ、ううっ…」ラーナは我慢していた涙が、ついにあふれてしまった。
そんな姿を見て、皆がいたたまれなくなり、グッと何かをこらえていた。




