夢 その二
その後ラーナは急いで帰宅した。セシアナ王女に元気な姿を見られるわけにはいかなかったからだ。幸いなことに、心配していた毒の症状も出ず事なきを得た。
夕食のテーブルを囲み、起きたことを家族に話すと、父は怒りでテーブルをたたき、皿が浮いた。母は気を失いかけ侍女に支えられ、フィルに至っては泣くのをこらえて、ラーナを抱きしめていた。
「陛下に一言申し上げたいところだが、カイリの見解が正しいだろう。」父が怒りを鎮めるように言った。
「カイリが席を空けるときは俺が行くよ。」フィルの目にも怒りが込められていた。
「ラーナ、しばらくお休みをいただいたらどうなの?」母はもはや顔色が悪くなっていた。
実はラーナもそのことを考えていた。城にいなければ、命を狙われる可能性も減るだろう。だが、それではセシアナ王女の思う壺なのだ。
「私が城にいないのであれば、セシアナ王女は王宮に留まり続けるでしょう。それは、私の、いえ、皆の望むところではありません。彼女にとって目的がレイルであり、そのための障壁が私であるならば、私は立ちはだかって、彼女の企みを止め、国に送り返さねばなりません。」ラーナは自分に言い聞かせるように言った。
「どうして…あなたがそんなに…そんな目に…っ」母が涙した。
「あまりにも不条理だ…」フィルも苛立つ。
「私も黙ってはおられん。陛下に時間をいただき策を練る。場合に寄っては、陛下にも強く出ていただかねばなるまい。何かあってからでは遅い。いや、何かを…起こさせるわけにはいかんのだ!」父はテーブルの上で両手の拳をブルブルと握りしめていた。
「ラーナ、しばらく辛い思いをさせるかもしれん。なるべく早急に策を練る。それまでは決して無茶をするんじゃないぞ。」
父の言葉が胸にしみた。
その夜ラーナは夢を見た。
そこは、グリナリア王国ではない、でも、見覚えのある建物と景色。
少し離れたところに二人の男女がいた。来ている服も、グリナリアのものではない。
ラーナは気付いた。
奈央の夢を見ていることに。これは奈央の時代に見た景色だ。これは…奈央の視界だ。
『そうだ…この日は、将太が先輩に告白された日だ。…急がないと将太が先輩にキスされてしまう!止めなきゃ!』奈央は駆け出そうとするも、なぜか体が動かない。
「将太!」叫んでみたが、息が漏れるだけで声が出ない。
見ていることしかできない奈央の前で、将太と先輩がキスをした。
「いやだ!将太ーーー!」その声なき叫びに気付いて、二人が振り返った。だが将太と先輩ではなく、その顔はレイノルズとセシアナ王女になっていた。
呆然とする奈央を見つめるレイノルズは、ひどく打ちひしがれた顔をしていた。その隣で王女が、してやったりの表情でニヤリと笑った。
それから二人は奈央に背中を向け、ゆっくりと遠ざかっていった。
「レイル!レイルーーーー!」奈央はただ泣き叫ぶことしかできなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ…」息苦しさで目が覚めたラーナの額には、汗がじわりと広がっていた。そして喉は締め付けられるように痛んだ。ラーナはベッドを降り、窓のカーテンを開けた。
外はちょうど朝日が昇ろうとして、空が白んできていた。窓を開けると、冷たい空気が一気に入り込んできた。頭を冷やして、心を鎮めるには、ちょうど良い冷たさだった。
『この不条理な現状に苦しめられているのは、私だけじゃない。もしかしたら…レイルが一番苦悩しているのかもしれない。』
ラーナは夢に出て来たレイルの表情が、忘れられなかった。
『彼を…助けなきゃ。』
目の前の木々から飛び立った二羽の小鳥が、朝日に向かって飛んでいくを見ながら、ラーナはそう思った。




