毒
その場の全員に緊張が走った。
ただのお茶であるはずがない…と全員が感じていたが、どうすることもできない。
「ジーナ、そちらの侍女たちと一緒に、お茶を用意してきてちょうだい。」王女の声に、ジーナは、
「かしこまりました。」というと、テスとハンナに向き直った。二人は顔を見合わせて青ざめている。
「二人とも、お茶の準備につれていってあげて。」ラーナが言った。二人はおずおずとジーナを連れて控室へと消えた。
その後カイリに誘導され、ラーナと王女は椅子に腰かけ、カイリはラーナの後ろへ、ケビンとノーランは部屋の入り口に待機していた。皆が手に汗にぎりながら、待ちたくない時間を待たされた。
侍女たちがお茶を乗せたワゴンを運んできた。テスとハンナは今にも吐きそうな顔をしている。
ラーナには考えがあった。そしてすでに覚悟を決めていた。万が一お茶に何かが仕込んであっても、即効性があるものではないはずだ。もしそうであれば、真っ先に疑われるのは王女だからだ。おそらく遅効性のものを使ってくるだろう。それならば毒が回る間に、なんとかできるかもしれない。そう考えていた。
テーブルにお茶が出そろった。王女の出方を見るためにも、ラーナはすぐにはお茶に手を出さなかった。先に茶菓子を食べて待っていると、王女が、
「うちのお茶、飲んでいただけないのかしら?」と言って、自分につがれているお茶を一口飲んだ。王女が飲んだからと言って、危険がなくなるわけではない。ラーナは意を決して一口飲んだ。ラーナではなく、周りの人間から、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。ラーナは、
「おいしいですわ。」と言って、にっこり微笑んだ。王女は、
「それは良かったですわ。」と、ニヤリと笑った。満足したようだったが、やはりすぐには帰らなかった。遅効性の毒を使えば、それが体中にまわるための時間稼ぎをしたいに違いない。
あまり時間を空けずして、ラーナは言った。
「あら?変ね…、私、脂汗をかいているわ。暑くもないのになぜかしら?…なんだか…気分も悪いわ……。空気が悪いのかしら…、王女殿下は大丈夫ですか?」
あまりに早く発症したため、ラーナの付き人たちがざわつき始めた。そして誰よりも王女が落ち着きをなくし、焦ってジーナを見ていた。ジーナは王女を見ると、コクリとうなずいた。それを見た王女が席を立った。
「どうやら体調を崩していたみたいね。それなら無理にお付き合い下さらなくてもよかったのに。では失礼するわね。お大事に。」と言って、ジーナを連れて出て行った。
「ラーナ様!」皆が駆け付けた。
「大丈夫よ、ちょっと一芝居売っただけ…。でもこれ以上はまずい気がするわ。」聖女の力のせいだろうか。体に入ったものが、毒だとわかる。カイリが、
「ラーナ様!吐けますか?ケビン殿とノーラン殿は部屋の外で見張りをお願いします。テスとハンナは、私が用意していたポットにお湯を注いで持ってきてください!」
全員が「はい!」と返事をして部屋を出て行った。カイリは、
「ラーナ様、こちらに吐いてください。」と言って用意した桶を差し出した。ラーナはやっとのことで、胃にあったすべてを吐き出すことができた。すぐにカイリがラーナの耳元に、小声で話しかけてきた。
「ご自身で、手当を試みてください。」毒が遅効性だからか、カイリのおかげか、まだ余力があったラーナは、コクリとうなずいて、自分の腹部に手をかざした。ラーナの周りを光が覆った。バタバタと足音が聞こえてきたころ、光が消えていった。
「おそらくもう大丈夫でしょう。」と言って、カイリが胸をなでおろしていた。同時にテスとハンナがお茶を持ってきた。
「万が一のために私が用意しておいた解毒茶です。飲んでおいてください。」抜かりのないカイリを、ラーナだけではなく、テスとハンナも尊敬の眼差しで見つめていた。
お茶をすべて飲み干したあと、ラーナはしばらく動くことができなかった。




