迫りくる危機
その後、ラーナが帰宅するまでの間に、レイノルズは来なかった。王女絡みで何かあったのだろうとカイリが言っていた。
ラーナは久しぶりに自宅に帰り、家族と一緒に夕食を楽しんだ。ルオナ村での出来事を話したかったが、カイリに止められていた。
「我々のことはご家族にも、内密にして下さい。どこでどのように話が漏れるかわかりません。これから先はなおの事注意が必要ですので、他言無用でお願いします。」と。なので、取り組みもしなかった、架空の薬草採取について話さねばならないのかと、心が痛んでいたが、それよりもセシアナ王女についての話になった。
「しばらく出仕は控えた方がいいんじゃないかしら?」母ロゼッタが言った。
「そういうわけにはいかない。ラーナは皇太子の婚約者なんだ。出仕しないとなると、そこをつつかれるだろう。」父マシュリがため息をついた。
「私が始終ついていてもよいでしょうか?」兄フィルが心配そうに言った。
「すでに護衛を二人もつけてもらったのに、こちらの判断でお前までラーナについては、陛下に対しての信用問題にもなりかねないぞ。」父が再度反対した。
「要するに、私は現状で戦わなければならないわけですね。」ラーナがまとめた。
家族が静まり返った。
「ラーナ、おそらく王女はすでにお前に仕掛ける策を講じているだろう。くれぐれも気を緩めることのないようにな。」父の言葉で、久しぶりの楽しいはずの家族との夕食が終わった。
そして実際、王女は翌日には侍女をつれて、適当なノックと共にラーナの部屋を訪ねて来た。彼女は入ってくるなり何も言わず、部屋をじっくりと見渡した。何やら部屋を録画されているような気分になり、ラーナは虫唾が走った。侍女も同じ動きだったのでなおさらだった。そしてようやく口を開いたかと思いきや、
「お前、名はラーナと言ったかしら?」との暴言に皆が目をむいた。ラーナが口を開こうとしたそのとき、
「恐れ入りますが、ラーナ様はこのグリナリア王国の王家の血筋を引く、由緒正しい公爵家ご令嬢であられます。そして皇太子妃になられるお方。王女殿下と言えども、他国からの来客であるあなたが、ラーナ様を呼び捨てることは、とうてい我が国は認めることはできません。改めていただけないのであれば、退室をお願い致します。」と、カイリが言った。
その言葉に、皆一旦、気を落ち着かせようとしているようだった。
「お前、私にそんな口がきけるなんて、たいそうな身の程知らずね。」王女はつり目をギラギラさせてカイリを睨んだ。
「お気持ちが変わらないようでしたら、このまま国王と殿下に謁見のお約束を賜りますので、ご一緒に参りましょう。そこでラーナ様を呼び捨てされることを、お二人に許可をいただいて下さい。」カイリが動じずに言ったことで、王女は一瞬だけひるみ、舌打ちをした。
「それはそれは、大変ご身分が高いようで、失礼いたしましたわ。ラーナ・さ・ま。」ラーナは嫌気がさしていた。どうすれば帰ってくれるかと考えていたが、その隙を与えず王女が言ってきた。
「私、ぜひご一緒にお茶をしたくて来ましたの。我が国での最高級茶葉をお持ちしましたわ。」その王女の言葉と同時に、横にいた侍女のジーナが、茶葉が入った袋を取り出した。
『ああ…早速まずいことになったわ…』ラーナはその袋から目が離せなかった。




