帰郷
ラビアの町に到着後、ハザン達と別れ、泣きじゃくるテスと騎士たちを馬車に乗せ、王都を目指した。途中カイリが馬車を止め見せてくれたのは、草原を流れるきれいな小川だった。それがレイルが取り組んでいる、取水工事のあとにできた小川だと、カイリが教えてくれた。ラーナは胸が熱くなった。こんな大がかりなことに取り組んでいたのだと、できた川を目の当たりにして初めて理解したような気がした。
『レイル…頑張ったんだ。そしてようやくレイルに会うことができるんだ。』
ルオナ村で気付いたことがひとつある。ミリーネの手当後、もうダメかもしれないと思ったあのとき、浮かんだのはレイルの顔だった。そして誘拐されたときも…。怖い思いもしたが、あれらの出来事で、今のラーナにとって、レイルがかけがえのない人であることを確信した。
レイルとの約束…取水工事が終わったら、ラーナからレイルに対する想いを伝える…。
『レイルにちゃんと…愛している、と伝えなきゃ。』ラーナは決心した。
約二か月ぶりに見る王宮に戸惑って、すぐすぐ馬車から降りることができなかった。しばらくいたあの森の中で、自然に囲まれて過ごすことに、知らず知らずのうちに居心地の良さを感じていたのだ。それでも長年過ごした王宮…懐かしさもあり、いざ馬車から降りようとするとよろけてしまい、外で待機していたカイリに支えられた。なんだかんだで、カイリに頼りっきりな自分に反省するラーナだった。
帰りの段取りもカイリがつけてくれた。先にクリスガルド邸に帰りたかったが、やはり陛下へのご挨拶が優先されるべきとの判断で、カイリが前もって城へ知らせを出していた。部屋へ戻ったら準備をして、謁見の間で帰城の報告だ。
『お父様も、おそらくフィルも来ているに違いない。今日はハンナも待機しているらしい。そして謁見の後はレイルに会える!』
ラーナは久しぶりに胸が高鳴り、左手に光る指輪を見つめた。
王宮の入り口につくと、ハンナが待っていた。目を涙でいっぱいにして、
「ラーナお嬢様…おかえりなさいませ。」と出迎えてくれた。ラーナも涙ぐんで、ハンナを抱きしめた。
「ただいま、ハンナ。長く留守にしてごめんなさい。あ、私埃っぽいでしょ!?着替え、手伝ってくれる?」ラーナはまだ町娘の衣装だった。
「もちろんです!」
その後、カイリが部屋まで先導し、ハンナとテスが荷物を持ってついてきてくれた。部屋のすぐそばの廊下を曲がったところで、目に飛び込んできたのはレイルの姿だった。会いたいあまりに幻覚を見ているのではと思ったが、確かにレイルだった。ラーナの部屋の前に、お付きの者を連れて立っていた。
レイルもラーナも、一瞬動きをとめて、お互いがお互いに見入った。
『ああ…相変わらず美しいのね。さらさらの髪は、少し短くなって、体つきは…若干逞しくなったんじゃないかしら?…色気が増した気がするわ…。』そう思いながら、ラーナはレイルに向かって、無意識に駆け出していた。レイルも同じようだった。
感動の再会…
と思った瞬間、廊下の角から、真っ赤なドレスの女性が現れて、レイルの腕にしがみついた。
『!?』
ラーナだけではない。その場にいた全員が息を飲んだ。
「レイノルズ様、どうされましたの?」しなだれるように、その女性がレイルを見ている。
『……誰!?』
ラーナは知らない。このときの自分の顔が、般若になっていたことを。




