帰路
翌朝、村人たちに別れを告げ、ラーナはカイリと共に、王宮へと帰路に就いた。
帰りはラーナを乗せた馬車の前に、もう一台馬車が見送りについてきてくれた。
運転は特殊部隊だ。一応目的は護衛だが、目立ち過ぎるのもよくないと、商業用の馬車に見せかけて、二台での旅路になった。といっても馬車がついてきてくれるのはラビアの町までだ。
ラーナには知らされていなかったが、ラビアからルオナ村に向かう行の道中も、特殊部隊が馬に乗り、遠くから見守ってくれていたとカイリから聞いた。ラーナはつくづく感謝の気持ちでいっぱいになった。
そして今回はなぜか、カイリは御者をしなかった。それどころか、ラーナと一緒に、馬車の客室に乗っている。しかもラーナの隣に座っている。そして御者はハザンだ。
なぜ隣にカイリなのか、不思議にも思ったが、ひとつ理由があるとしたら、お尻だ。ラーナの座席にはお尻衝撃用のクッションがいくつも敷いてある。おそらく前回、カイリもお尻が痛かったのだろう。
『痛くなったら、手当してあげるのに…』と思いながら、ハッ!と気付いた。
『さすがにお尻を手当してもらうのは恥ずかしいかしら…。だから黙って隣に座っているのね。』と、勝手な推理でカイリが隣にいることを納得していた。
当然、カイリにとっては尻の痛みなど頭になかった。ただただ、ラーナと二人きりでいられる最後の道中を楽しみたかっただけなのだ。そのためにミリーネと一緒にいたがるハザンを脅迫して、無理やり御者にしたのだ。そのため道中は、
「ラーナ様、お茶もすぐご用意できますので、必要なときにはお申し付けください。」などと、至れり尽くせりだった。
中でもカイリにとって一番の至福のときは、野営の際、馬車内で寝泊まりするときだった。何かあってはいけないと、ラーナが眠るそばにいることができた。寝入るまで見届け、朝には眠っているラーナを起こす。それだけで幸せに浸ることができた。
そんな日を繰り返し、ついに明日ラビアの町に到着だ。馬車に揺られ、ラーナはウトウトしていた。
「次の野営場所までもうしばらくかかります。少しお休みくださいませ。」カイリが言うと、ラーナは、
「そうだね、じゃあ少し寝るね。」と座席にもたれて目を閉じ、寝息を立て始めた。しばらくするとカイリの肩にポスッと頭を乗せてくる。これが、カイリの馬車内での楽しみのひとつになっていた。
「こうやってあなたに寄り添えるのも、これが最後ですね。…明日からは、以前の私に戻るよう努力しますので、今はこのままで……。」
空は薄曇りで、時折乾いた風が、ピューっと音を鳴らして過ぎ去った。まるで自分の心を表しているようで、喉の奥を締め付けられる感じがした。
ガタゴト…と聞こえてくる車輪の音も、カイリの悲しみに拍車をかけていた。
「ラーナ様、すみません。」と小声で言うと、ラーナの手に自分の手をかぶせて、ギュッと握った。ラーナの体温を感じながら、
『このまま…時が止まってくれないだろうか…』と、そのまま目を閉じた。
二人は寄り添ったまま、しばらく馬車の中で揺られていた。




