救助
青年は地面に崩れ落ちた。一緒にラーナも地面に投げ出された。ラーナは青年に何かが起きたことだけを察知し、不安に胸を締め付けられながら、待つことしかできなかった。
「くそっ!」と言いながら青年が何かをしていた。そしてラーナに向かって吐き捨てた。
「聖女さんよ!今日のところはあきらめてやる。だがお前には知っておく義務がある。だから教えてやる。俺の名はダナン。幼いころにどういうわけか親と引き離された。母親に会いたければ、グリナリア王国の聖女を見つけて連れてこいだとよ。俺は…あきらめねぇ。あきらめるわけにはいかないんだ。だが…自分の立場ぐらい理解している…いいか!よく覚えておけ!お前がぬくぬくと親や周りから傅かれている間に、そのお前のために、国に捨て駒にされて、親から引き離されて、わけのわからねぇ仕事をしなければ、生きていけねぇ人間がいるってことを、絶対に忘れるんじゃねーぞ!」
怒りを通り越した、心の奥底からの憎しみを向けられた気がした。
一人冷たい地面に横たわるラーナは、冷えた土の感触と、青年の声と、恐怖に、ただただ震えていた。暗闇と、束の間の静寂の中、ジャリっと地面がこすれる音がした。青年が去っていったらしい。同時に、
「行けっ」聞きなれた声が聞こえて、数人が走り出すような音がした。ラーナは思わず声を上げた。
「カイリ!?カイリ?いるの!?返事してっ…」最後の言葉は嗚咽に変わっていた。次の瞬間、フワッと何かに抱きしめられた。カイリだとわかった。震えは止まらないが、涙が滝のようにあふれ出した。ようやくすべての拘束が解かれ、視界には月明りが差し込んだ。ラーナの目に映ったのは、安堵の表情の中にも、悲しみと、切なさを含んだ…そんな顔のカイリだった。ラーナはカイリに抱きついて泣きじゃくった。
「遅い…遅いよぉ、カイリィ…。ううっ…」
ラーナの声を聞いて、カイリは苦しそうに顔を歪め、ラーナを強く抱きしめた。
「すみませんでした。あなたを無事に助け出すために、すぐに手を出せなかったのです。怖い思いをさせて申し訳ありません。」カイリが言うと、
「こわ…怖かったよぉ…ほんとに、怖かったんだからぁ!うわーっ…」安心したのか、ますます涙が止まらなくなった。
カイリは、無自覚に自分に身を委ねてくるラーナを、愛おしいと思う気持ちを止められなかった。だが…
「あなたが…無事でよかった。あなたを失うかと思うと、生きた心地がしなかった。…もう…あなたが生きていてくれれば…私はそれでいい。…あなたが生きて、笑っていてくれれば、何もいらない…。もうそれ以上は…望みません。」自分に言い聞かせるように言うと、もう一度強く、ラーナを抱きしめた。
ラーナは張りつめていた緊張の糸が切れたのか、その後は夢うつつの状態で暗闇の森をあとにした。カイリに背負われて帰路に就いたことも、二人の側に、数名の騎士のような存在がいたことも、覚えていないくらいに。




