誘拐
ここではもう慣れたが、カイリを近くに感じて、ラーナは目を覚ました。懸命に薬草茶を飲ませようとしてくれていた。こうなるともうカイリが、兄か父、身内のように思えてきてしまった。ラーナもすっかり身を任せていた。
「カイリ、ありがとう。」その声で、ラーナが目覚めたことに気付いたカイリは、ビクッと驚きながらも、ラーナの回復を喜んだ。そしてラーナのその回復力について考えていた。
「おそらく…治療で体力を消耗し、月の薬草を摂取する…、この繰り返しで、ラーナ様に免疫がついたというか、回復力が早まっている…。もしくはラーナ様の力そのものが、大きくなっているのかもしれません。いずれにせよ、早く回復されてなによりです。」
カイリによると、意識を失った当日の夜に目を覚ましたらしい。今までで最短の回復スピードだ。
ミリーネにはハザンが付きっ切りらしい。デレデレの顔が目に浮かぶ。カイリも表情が明るい。いろいろ大変だったが、結果として良かった。そう思っていると、カイリが改まってラーナに向き直った。
「ラーナ様、ミリーネのこと、本当に…」終わらないうちに、ラーナの指がまたカイリの唇に伸びた。カイリは顔を赤らめて、ラーナの手を握り、そのまま、
「感謝しています。これから先、この命はあなたのものです。」と言った。そんなカイリの言葉に、ラーナはギョッとして慌てて返した。
「感謝の気持ちは受け取るわ!でも自分の命をそんなに軽く扱わないで。聖女のためなんて思わなくていい。カイリにはカイリの人生を大切にして欲しい。こんな形だったけど、この村に連れてきてくれて、良かったと思っているの。そしてここで暮らしているうちに、あなたが兄のように思えてきて…。カイリはもう、私にとっては家族のように大切な人よ。」
黙って聞いていたカイリは、泣きそうな…悔しそうな…辛そうな…とても言い表すことのできない、複雑な顔をしていた。ラーナにとっては予想していなかった表情だけに、思わず、
「カイリ?」と疑問符を付けて呼びかけていた。カイリはラーナの手を握ったままうつむいて、
「ありがとう…ございます。」とだけ返した。
その後、ベッドで眠りにつきながら、ラーナはさっきのカイリの表情を思い出していた。
『間違いなく、変な顔をしていたわ。私、何かいけないことでも言ったかしら?感謝の気持ちを伝えただけなんだけどな…。』そんなことを考えながら、ちょうどウトウトしかけたそのとき、口を布のようなもので塞がれた。
ラーナは驚きと恐怖で体が硬直した。視界に入ったのは、ラーナよりも少し若そうな青年だった。
「命が惜しかったら、おとなしくしといてもらおうか、聖女様。」そう言って、そのまま口に被せた布を頭の後ろで結び、素早く両手も背中の後ろで、両足もあっという間に縛っていった。
最後に目隠しをされ、青年の肩に担がれて、ラーナは部屋をあとにした。




