秘める恋
そしてラーナ様が倒れた。
今回は以前に起こっていたものとはわけが違う。彼女の容態を見れば容易に察しはついた。体からは血の気と体温が引いていき、呼吸は浅くなっていった。急いで薬草茶を飲ませ、ありとあらゆる滋養強壮効果のある薬草や食べ物をすりつぶして流し込んだ。それでも彼女は目を覚まさない。私はラーナ様のベッドの脇で椅子に腰かけ、彼女を失うかもしれないという恐怖と戦っていた。
「少し寝てこい。」ハザンがやってきた。
「食事も用意させている。お前まで倒れたら、俺は村人から命をとられかねないぞ。」
聖女様がこのルオナ村で意識不明になっているということは、村人たちに絶望の影をおとした。この村が存在し続けた証である聖女様が、奇跡的に現れたにも関わらず、その命がこのルオナ村で消え去ろうとしているのだ。正気の沙汰ではない。ハザンの言う通り、万が一のことが起これば、彼はただでは済まされないだろう。だが万が一など…起こさせるものか。
「休んでくる。リアとサラを呼んでくれ。」私の言葉にハザンが言った。
「俺が代わる。何かさせてくれ。聖女様をこんな目にあわせておいて、何もしないなんて拷問でしかないんだ。」ハザンの気持ちはわかった。だが、
「男にラーナ様は任せられない。お前はミリーネの様子を見ていてくれ。」そう言った私を、ハザンが眉間に深いしわを寄せ、驚きの目で見てきた。
「お前、まさか…」私は視線をそらし、ドアへと向かいながら言った。
「とにかくリアとサラに任せる。俺が戻ってくるまではな。」
「おいっ…!」ハザンの焦ったような声を聞きながら、私は部屋を出た。
ラーナ様が倒れて、10日が過ぎようとしていた。まだ目覚める様子がない。だが命はつなぎとめられている。あきらめるわけにはいかない。
「ラーナ様、薬草茶を飲みましょう。」私が彼女の上体を起こし、カップを持ったそのとき、
「レイ…ル…」そう言ってラーナ様の唇が動いた。
「ラーナ様!」私はとっさに呼びかけていた。暗闇に光が差したようだった。彼女が…目覚めようとしている。だが、なんだこの…胸を締め付けられる感覚は…。
ああ、そうか。彼女の口からもれた言葉が、殿下の名前だったからか…。
彼女は間違いなく、殿下を愛しているのだ。まだ何者なのかわからない『ショータ』を、心の中に持ち続けていようとも、今彼女は確かに、殿下を愛している。
わかっていたことだ。王宮ではそれを静かに見守れていたはずだ。それが今になって……。
大丈夫だ。ラーナ様が生きれくれさえいれば、それでいい。私はこの想いを秘めて生きていける。そういう定めなのだ。
「ラーナ様、これきりにしますので、どうか…お許しください。」そういって、彼女の唇にあたるかあたらないかの頬に、キスをした。




