困惑
「ザーザー」と鳴る雨音で、ラーナは目を覚ました。外は久しぶりの大雨だった。ラーナはふらつく足取りでベッドを出て、窓を開け放った。
空から降りてくる、光を帯びた無数の水の線と、その線が木々の葉に打ち付けて、飛び散っていく音とで、森は神秘的で、厳かな空気を作り出していた。
『城にいると考えもしないけど、本来の自然はなんとも大きく偉大で、たくさんの恵みをもたらしているのね。』そんなことを思いながら外を眺めていると、ノックの音がした。カイリだった。
「ラーナ様、目を覚まされたんですね。ですがそんなに急に動かれると…」言われた先にラーナがよろけ、カイリが瞬時に駆け付け抱き留めた。そしてラーナの瞳を見て言った。
「…こんな風になりますよ?」カイリがそのまま抱き上げてベッドにラーナを運んだ。
カイリがお茶の準備をし始めた。
「私、どのくらい眠っていたの?」
「丸二日です。」カイリが月の薬草茶のカップをラーナに渡した。お茶の匂いに癒されながら、ラーナはあの日のことを思い返していた。
「ミリーネはどんな様子?」
「おかげさまで、顔色も良く、先日は一瞬指が動いたと、ハザンが喜んでおりました。」
ラーナの顔がパッと明るくなった。
「そうなのね!実はこの前も、ミリーネの口元が動いたように感じたの。その途端ものすごく力を吸い取られているような気がして…。きっとあと少しなんだわ!」
カイリはなんとも言えない複雑な顔をして言った。
「無茶だけは…しないでいただきたいのです。」
「ここまで連れてきておいて?」ラーナがちょっと意地悪そうに言うと、カイリはフイっと横を向いて黙った。
「冗談よ。例えば私がミリーネの手当を断っていたとしても、あなた達が私に危害を加えるとは思えなかった。だから私は断ることもできたのよ。そうしなかったのは私の意思で、今していることのすべての責任は私にあるわ。だからこの先、私に何が起ころうとも、あなた達の責任ではないの。」そう言った途端、カイリがラーナの腕をつかんだ。眉間にしわを寄せ、歯を食いしばっているように見えた。
「お願いですから、そういう言い方はしないでください。あなたの犠牲を強いてまで、妹を助けたいとは思っていないのです。万が一そんなことが起きようものなら…私はっ、………。」そう言うカイリを見て、ラーナは慌てて取り繕った。
「ごめんなさい!言葉が足りなかったわね。私はもちろん、注意して手当しているつもりよ。カイリもそばで見ていてくれているし。ただこうやって倒れたりするのは、私のせいだから気にしないで。その代わり、ちゃんと助けてね。」そう言って笑うラーナの顔を見て、カイリは握りしめていたラーナの手を、そのまま自分の額に持っていき、目を閉じて言った。
「もちろんです。」
カイリの態度がいつもと違うことに、少し戸惑うラーナだった。




