兆し
ミリーネを手当したあとは、カイリに運ばれ、月の薬草茶を飲んで寝る。この繰り返しが続いた。治療は一日に一回が限度だったが、回を重ねる毎に、ミリーネの顔色も良くなってきた。相反して、ラーナは回復には時間がかかるようになった。本来ならばミリーネのような症状であれば、一回の手当で数日は寝込むはずだ。今のように毎日治療が可能なのは、間違いなく月の薬草のおかげだろう。ミリーネの命がなんとか持ちこたえていたのも、月の薬草の力だろうとカイリが言っていた。その月の薬草の力をもってしても、体力の回復に支障をきたすようになったのは、それだけミリーネの衰弱が激しいせいだとラーナは感じ取っていた。治療を開始してからというもの、日を追うごとに、ミリーネに力を吸い取られているような感覚に陥るときがある。ラーナの力で回復しつつあるミリーネの体が、徐々に力を持ってきたため、より多くの治癒力を欲し、ラーナから吸い上げようとしているような感じがあった。しかしそれをそのままにしておけば、ラーナに危険が及ぶため、少しでもその感覚を察したら、途中で手当をやめるようにしている。
寒さが少しづつ厳しくなってきていた。だが晴れた日は、穏やかな木漏れ日が差し込んできて、澄んだ空気の中に幾筋もの陽の光が、空から地面へと降り注ぐ。ルオナ村のその景色は、何度もラーナの目を奪って離さなかった。
「きれいだわ…。自然とは、こんなにも美しいものなのね。」
ミリーネの手当に向かう道で、ラーナが立ち尽くして独り言をつぶやいていると、
「あなたのために造られ、あなたのために紡がれてきた村です。そのあなたが、今このルオナ村でそう言って下さることは、村にとっても、先祖にとっても、大変な祝福です。」と、後ろにいたカイリが、ほんのり嬉しそうに言った。
「大袈裟過ぎるわ。」ラーナがハァ…とため息をついた。
『そういえばカイリもいたんだった。こんな小さな村なのに、必ずどこに行くにもついてくるのよね。まぁミリーネの手当のあとは不安だから、いてもらわないと困るけど。』
「ミリーネ、おはよう。今日はとてもいい天気よ。早くあなたと一緒に外の景色を見たいわ。」ラーナはそう言うと、椅子に腰かけ治療を始めた。
『⁉ 今ミリーネの口元が少し動いた!治癒が近い!もう少し…っ、…ち、力が奪われる…』
「ハァ、ハァ…」気付けばラーナは、息も絶え絶えにフラフラとしていた。その瞬間、カイリが手当中のラーナの手をミリーネからはぎ取って叫んだ。
「ラーナ様!無茶をされないで下さい!」ラーナは意識が朦朧としていた。
『ああ、またカイリに抱っこされて帰るのか…重いよね。ごめんね。いや、私が謝ることではないか。ん?カイリ、抱っこして帰ってくれない?あれ?カイリ…何してるんだ…ろ…』
そのまま意識を失ったラーナを、カイリは力の限り、抱きしめていた。




