自白
次に連れてこられたのは、一軒の家だった。案内されたのは、陽当たりのいい奥の部屋。その部屋のベッドで女性が眠っていた。ラーナよりも年上に見えるが、寝顔ではよくわからなかった。そして眠っているというより、床に臥せっていると言う方があっているのかもしれない。顔色が悪く、痩せているように見える。
「…妹のミリーネです。」カイリが呟いた。
「!?」ラーナはビクッと肩を揺らした。
「もともと病弱ではあったのですが、数年前から食事の量が減り、そのうち寝込むようになりました。そして今ではもう目を覚まさなくなったのです。」
ラーナは黙ったままだった。
「母はミリーネを産んで他界しました。私たち兄妹を育ててくれた父も数年前に…。最後までミリーネの病弱さを気にして、私にくれぐれもよろしく頼むと…。ですが、私にはどうすることもできませんでした。……もし、もしこの時代に聖女様が現れて下されば…。そう思って生きてきました。」カイリの言葉に、ようやくラーナは自分がここにいる理由がわかった。
「聖女様を守るよう教えられてきたはずですが、聖女様を利用したいとも思う、私は不届き者なのです。」カイリは見たこともないほど、追いつめられた顔をしていた。
「あなたに直接お願いしたところで、困らせてしまうでしょう。そして王室の耳に入れば、もはやルオナ村に連れてくることさえも叶わなくなります。悩んだ挙句、私にはこれしか方法がなかったのです。」カイリは真っすぐにラーナを見つめた。そして頭を下げた。
「ラーナ様、申し訳ありませんでした。自分がしたことが、どれだけ身勝手で常軌を逸した行動であったか…。あなたがここルオナ村におられる姿を見ているうちに、後悔の念に苛まれました。」
ラーナはすぐに何かを言い返すことはできなかった。カイリなりに、自分が聖女を守る立場であるということと、残された家族をなくしたくないという思いとで、長く葛藤していたのだろう。ラーナには、カイリを責めることはできなかった。
「私に…ミリーネを救って欲しかったのね。」ラーナの言葉に、カイリはグッと唇を嚙んだ。
『見た限り、ミリーネの治癒には数日、いやそれ以上かかるだろう。自分の体力を見ながら、細心の注意を払って臨む必要がある。今までしてきた手当とは比べ物にならない、覚悟のいる治療だ。確かに、これほどまでの治療をさせられると、家族や、もし王家が知ってしまえば、絶対に反対するだろう。』ラーナがミリーネを見ながら考えていると、
「ラーナ様、もう良いのです。」とカイリが言った。
「ここまでお連れしておいて言うのも憚られますが、私がした行動は間違いです。自分たちが知り得た情報を利用して、聖女様を守るどころか逆手に取り、治癒を強要するなど言語道断。ルオナ村の掟に反する行為です。」カイリはラーナと向き合った。
「これまでの数々のご無礼、お許しくださいとは申しませんが、私の命にかえても…」
「バターンッ!」突然ドアが激しく開いた。向こう側にハザンが立っていた。
「お待ちください!聖女様!」ハザンはラーナの前までやって来て土下座をした。
「私…私の婚約者をどうかお救いください!!」床にはハザンの涙がポタポタと落ちていた。そんなハザンに駆け寄ってカイリが言った。
「ハザン…すまない。私は…間違いを押し通すことはできな…」その言葉を切ってハザンが叫んだ。
「カイリすまない!お前が苦しんでいたことはわかっている!お前にとっては大事なたった一人の家族。ルオナ村にとっては大切な第二王子の末裔…。でも…、だからこそ!村人全員が苦しみながら、ついに現れた聖女さまに助けを求めているんだ!」ハザンは顔を上げた。
「ラーナ様、カイリがずっと悩んでいたのを、行動に移すよう急かしていたのは私です。私はいかなる罰も受けます。ですから、どうかっ…どうか彼女を救っていただけないでしょうか⁉…ミリーネの…彼女の笑顔を…もう一度だけ見ることができたら…私の命など……。」ハザンはまた泣き崩れてしまった。
『彼女を愛しているのね。』
ラーナは黙ってミリーネの側に行った。そして彼女の胸に両手をかざし、祈りをこめた。同時に強い光が放たれた。
「ラーナ様っ…」カイリが焦って止めようとしたようだったが、すでに遅かった。ハザンは床に座ったまま、ただ呆然とその様子を見ていた。
しばらくしてラーナが、フラッと倒れる寸前でカイリが抱き留めた。
「ラーナ様!」カイリが心配そうにのぞき込んでいる。
「……これは相当な長丁場になりそうね。」ラーナがそう言うと、カイリはそのまま彼女を抱きかかえ、足早にその場を去っていった。




