責任
一階奥、王家専用控室。ラーナはソファーに腰かけ、隣に座るレイノルズに、ただただ抱きしめられていた。
「レイル…あの…、もうそろそろ戻らないと、皆が心配するわよ。特に陛下やお父様がなんというか…」そんなラーナの心配をよそに、
「ラーナの具合が悪かったんだ。今頃俺が介抱してると思っているさ。」レイノルズが言った。
『そんな簡単にいくかしら?』
コンコン、ドアをノックする音が響いた。
『ほら、やっぱり簡単なはずがないわ!』ラーナの脈が早まった。
「はぁ~。」ため息をついてレイノルズが立ち上がって言った。
「俺が説明する。お前は黙って見ていればいい。」
『そんなうまくいくわけないでしょーーーーー!?』
そしてレイノルズがドアを開けた。入ってきたのは総勢六人。ようするに、二人の家族全員だ。
国王と王妃は顔が明らかに怒っている。ラーナの父と兄は………なんとも言えない妙な顔をしていた。母はちょっと複雑な顔。唯一メルリーナだけがにんまりしていた。カイリはドアの外で見張りをしているらしい。
「レイノルズ、説明しろ。」国王が太い声で言った。レイノルズは丁寧に、自分勝手な解釈を説明した。が、誰も信じてはいないようだった。ラーナの父と兄に至っては、もう泣く寸前だ。
「百歩譲って、その話を信じることにする。では、お前はこの後始末をどうするつもりだ?」国王の声には苛立ちが見え始めた。
「私が会場に戻り、ラーナは体調不良のため、先に帰したと皆に説明します。」レイノルズの言葉に、
「そういうことを言っているのではない!」ついに国王が激怒した。部屋が静まり返った。
「お前のことはいい。だがラーナにとっては今日が成人の日でもあり、社交界デビューの日でもあったんだ!ここでラーナを婚約者にと考えるものも多くいたはずだ。そしてラーナにはたくさんの出会いが訪れるはずだったのだ。それなのにお前が、この国の皇太子が、たとえ介抱のためとは言え、共もつけずに二人きりで部屋にこもった。これが何を意味するかわかるか?」
レイノルズは黙ったままだった。フィルはいつ涙が決壊するかわからない状態だった。
「ラーナはもう、婚約者を選ぶどころか、婚約の話も来ないだろう。」フィルの防波堤が決壊した。
「そしてお前に至っては、皇太子としての皆からの信頼を裏切ったのだぞ。」これにはレイノルズも唇を噛んだ。
「これが、お前が対処していかねばならない後始末だ。さぁ、どう責任をとるつもりだ。」
部屋から音が消えた。皆が各々頭を抱えているようだった。そして重たい沈黙をレイノルズが静かに破った。
「ラーナと早々に婚約の儀を執り行います。」全員が、「え!?」という顔になった。特にラーナが。
ただ全員が黙っているのは、もうそれしか方法がないからだ。未婚でいるか、レイノルズとの結婚か…。王子と結婚するということは、いずれはこの国の王妃になるということだ。途方もない重責がラーナにのしかかった。
「陛下、私も申し上げてよろしいでしょうか?」母が口を挟んだ。
「殿下、婚約はしていただかなくて結構です。」再度全員が「え!?」の顔になった。特にレイノルズが。
「結婚が女性のすべてではありません。ラーナには一人でも生きていけるように、様々な術を教え込んだつもりです。それにこの子は外見だけではなく、心も美しいと私たち家族は自負しております。時が経ち、今回のこの件が周りにとって、取るに足らないものという認識になったときに、ラーナのことを心から愛してくれる方がおるやもしれません。もしかしてその方こそが、ラーナの運命かもしれま…」母が言い終わる前にレイノルズが叫んだ。
「愛しているんです!ラーナを、心から!」両手の拳がきつく握られ、震えていた。そして顔を上げ、真剣な眼差しで言った。
「クリスガルド公爵、公爵夫人、こんな形になって申し訳ありません。でも私はラーナ以外考えられないのです!どうか、どうかラーナを私に下さい!」レイノルズが深く頭を下げた。
皇太子に頭を下げられ、公爵家の面々は若干戸惑ったようだが、公爵が気を取り直して話し始めた。
「では殿下、先ほど陛下がおっしゃられた、ご自身の責任についてはどうするおつもりです?民からの信頼がない国王に嫁がせるほど、私たちは無知ではありません。ましてや現王妃の公務を拝見しておりますが、大変なご苦労と重責の中、国と王宮の発展に力を注いでおられます。それは民からの信頼あってこそ成り立っているものかと。そのような立場に、しかも民からの信頼のない国王の横に、我が娘をどうして立たせられましょう。」
再度静寂がやってきた。
「シアンヌ地域の取水工事を任せて下さい。」レイノルズが言った。国王と公爵が顔を見合わせた。
「その件は何度も議題に上がっているが、なかなかの覚悟がいるぞ。」国王が言った。
「だからこそです。民のためにも優先度が高い工事になります。」レイノルズが言った。
しばしの沈黙のあと、国王が公爵家に向き直った。
「マシュリ、ロゼッタ、フィル、此度の件、愚息が大変申し訳ないことをした。許してくれ。本来ならば正々堂々と勝負して、ラーナの気持ちを得ることができればと思っていたのだが…。此度のような強行にでるとは、私も想定外であった。」そう言って頭を下げた。これには三人とも焦りを隠せなかった。だが国王は続けて言った。
「こんな愚息に育ってしまったのも私の責任だ。私もラーナ嬢の幸せをしっかり見届けるとする。そしてこの親バカからひとこと言わせてもらえば…レイノルズはラーナ嬢を本当に愛している。その件に関しては私が保証しよう。」それを聞いたレイノルズの目が少し光ったように見えた。
そしてその場で国王がまとめたことはこうだ。
一、婚約の儀をなるべく早めに執り行う
二、レイノルズは河川工事に着手する
三、二が完了するまで、二人は会わないこととする
この三つが守られなければ、婚約は破棄されることとなる。
そしてこの後、王家は会場に戻り、公爵家は帰宅することとなった。
こうしてラーナの、会場でのお披露目会は、あっという間に幕を閉じたのであった。




