告白
会場は人であふれていた。これからいよいよ国王が祝辞のため、大階段の踊り場へと向かう。ラーナ達はその後ろをついて行くことになっている。二階控え室奥でラーナは緊張で青ざめていた。レイノルズがフッと笑って手を差し伸べて来た。その手を取った途端、レイノルズが躍り始めた。必然的にラーナも踊っている。途中抱きかかえられ、空中に高く体が浮いた。思わず「キャッ!」と声が出たラーナ。それを見ていたカイリが「殿下」と諫める。ダンスもどきが終わり、無事着地すると、レイノルズが聞いてきた。
「本番もこれやるか?」ラーナは思わず笑った。
「リスクが高くないかしら?」そう言うラーナをレイノルズが軽く抱き寄せた。
「今日は絶対離れるなよ。俺が守ってやる。」そう言ってきた。
『この前から、何気に距離が近い気がする。』ラーナは頬が熱くなるのを感じた。
レイノルズがラーナの緊張をほぐそうとしたことが、手に取るようにわかった。こうやっていつも彼が隣にいてくれたことを、彼の優しさに触れていたことを、当たり前の様に感じていたのかもしれない。そんな自分を反省した。レイノルズはこの国の次期国王だ。
『私も彼を支えなきゃ。そして絶対に、恥をかかせるわけにはいかない。今日はパートナー役をしっかり乗り切ってみせる。』緊張よりも、気合が入ってきたラーナだった。
ファンファーレと共に成人のお披露目会が始まった。踊り場には、国王に続いて王妃が登場した。その後ろにレイノルズとラーナ、そしてメルリーナとフィルが。脇には父と母、カイリが控えていた。
「諸君、今日は良く集まってくれた。そして成人を迎えた若人たちよ。おめでとう。そなたたちの力がこの国を支えていくのだ。引き続き勉学、鍛錬に励み、この国を盛り上げていってくれることを期待している。今回、息子レイノルズも成人を迎えた。そして幼いころよりレイノルズと共に学び、王室を支えてくれているラーナ・クリスガルド嬢も同じく成人を迎えた。今日は私から彼女にお願いして、息子のパートナーとして出席してもらっている。この二人のことも、皆よろしく頼む。では今宵は存分に楽しんでくれることを望む!」
拍手と歓声が鳴り始めた頃、ラーナはレイノルズに手を引かれて階段を降りていき、ホールの中央に立った。お互いお辞儀をすると、演奏が始まった。贅沢にも王宮では、この演奏を直に聞いて練習をしたことが何度もあった。二人にとっては間違えようもないダンスの曲だ。そしてこの二人の優雅な踊りに会場中が釘付けとなった。流れる動きがまるで川のようで、ときどき跳ねる動きは水しぶきのようだった。何よりも、令嬢はレイノルズから、子息はラーナから、目が離せなかった。美しいの一言では足りない、あふれ出る気品と隠しようのない麗しさに、老若男女問わず、ただただ見とれるばかりだった。曲が終わり、二人がお辞儀をすると、ため息交じりの歓声と拍手に包まれた。
その後は皆で一斉にダンス…のはずだったが、踊る者ももちろんいたが、大勢の男女が二人の周りに集まってきた。一気に話しかけられ聞き取ることもままならなかった。そこへ、
「皆さま失礼致します。どうかこのお披露目会を盛り上げるために、一度踊ってきてはいただけないでしょうか。その間にお二人には少し休憩をお取りいただきますので。」と、カイリが助けてくれた。そして王家専用のスペースに連れていき、飲み物を持ってきてくれた。
「楽しかったな。」レイノルズが言った。
「ええ!殿下の素敵なリードのおかげですよ。」ラーナが言った。
「俺以外に、お前をあんな風に躍らせることができるやつはいない。」なぜか顔が怖い。
「そうかもしれませんね。」
「かもじゃない。そうなんだ。」何やら周りを警戒しているようにも見える。
そうこうしているうちに、令嬢が二名やってきた。彼女たちがレイノルズと話したがっているのは明らかだった。ラーナは少し離れようとした。が、何かが引っかかって動けない。良く見るとレイノルズがドレスの後ろをわからないように握りしめていた。動けないはずだ。
『私、お邪魔じゃないかしら?』と思っていると、ラーナの方にも子息たちが三名やってきた。わざわざ自己紹介をしてきて、先ほどのダンスのことなどを話してくる。集団ではあったが、2グループに分かれての会話になっていた。笑顔を崩さず、世間話に堪えていると、一人の男性がラーナの右手を取って、
「是非、私とも一曲踊っていただきたい。」と言ってきた。この時レイノルズの眼光が鋭くなっていることにも気付かないラーナは、『申し出を受け入れようにも、レイルが離してくれない。どうしよう…』と悩んでいた。その一瞬の隙にラーナの体がフラッと後ろによろけた。そこをレイノルズが支えて、ヒョイと両手でラーナを抱き上げた。
「失礼。彼女は朝から体調不良だったんだ。少し休ませてくる。」と言ってホールから抜け出し、王家専用の控室へとラーナを運んだ。部屋へ入ると中から鍵を閉め、ラーナをソファーにおろした。
「レイル!なんてことするのよ!?」そう、すべてはレイノルズが仕組んだことだった。ドレスを握りしめていた手をグイっと後ろに引いて、わざとラーナをよろけさせたあと、自分で支えただけのことだった。横に座ったレイノルズがラーナの体をソファーへと押し倒した。ラーナの頭は真っ白になった。
「…他の男になんか…触らせないでくれっ…」怒りと悲しみの混ざった顔をしてレイノルズが言った。
「触るっていっても…手だけだったわよ?」
「ダメだ!どこだろうと許さない!お前に触れていいのは、俺だけなんだ!」そう言ってレイノルズは、ラーナに覆いかぶさるように抱きしめた。
「気がどうにかなりそうだった。このお披露目会にくる連中から、どうやってお前を遠ざけるか、ずっと考えていた。それだけで気が狂いそうだった。まともに眠れもしなっかった!」半ば叫びにも近い声でレイノルズが言った。
『そんなこと考えていたなんて…。』ラーナは言葉が出なかった。でも胸にはじんわり温かい光が灯っているのを感じた。そして嬉しいと思っている自分がいることに気付いた。
レイノルズは顔を上げた。紺碧の瞳は少し潤んでいるようだった。そしてサラサラの前髪が、ラーナの顔に届きそうなところで言った。
「お願いだ。もうそろそろ気付いてくれ…わかってくれ…、俺はお前が好きだ。最初からお前しか見ていない。」そしてゆっくりと、自分の唇をラーナの唇に重ねてきた。温かくて柔らかなその感触をラーナは離したいとは思わなかった。むしろ、自然と両手をレイノルズの背中に回していた。途端レイノルズの瞳が光り、何度も何度も、ラーナにキスをした。そして何度も何度も、ラーナの耳元で繰り返した。
「好きだ、ラーナ。愛してる。」
ラーナの胸がキュウッと音をたてた。




