見舞い
レイノルズ殿下が、クリスガルド家に到着された。カイリも一緒だ。
「レイノルズ殿下、ようこそおいで下さいました。私もラーナもお待ち申し上げておりました。」そう言ってフィルが出迎えた。斜め後ろにはラーナもいる。
「フィル、ありがとう。そしてラーナ嬢、お体の具合はいかがですか?」殿下の言葉に、ラーナは顔を上げつつも、目は伏せたまま、細い声で答えた。
「レイノルズ殿下、お気遣いいただきありがとうございます。すっかり元通りになりましたので、問題ありません。」
「それはよかった。」レイノルズはにっこりと笑った。
ハロルドに誘導され、大広間に移動した。そこは謁見の間には程遠いが、クリスガルド家では一番広い部屋で、天井も高かった。真ん中には長いソファーが二つ、その間に大きめの気品のあるテーブルが置かれていた。殿下と向かい合って、ラーナとフィルが並んで腰かけた。その後、カイリが侍女に指示をしたかと思うと、すぐに大きめのバスケットが運ばれてきた。カイリが受け取り、殿下の横に置いて蓋を開ける。殿下が取り出したのは、何やら布に包まれたものだった。その布を包みの中は、さらに紙で包まれていた。その紙を開けながら殿下が言った。
「今日はお見舞いの品として、ラーナ嬢にプレゼントを持ってきました。」
出てきたのは、眩いほどのホールケーキだった。淡い黄色のクリーム?がタルト生地?にのっているような感じだ。上には赤や青のベリーがふんだんにのせられていて、その上には粉砂糖がかけられていた。
『かわいい!美味しそう!』ラーナは一瞬で目を奪われた。この世界で、これほどのケーキに出会えたことがないからだ。砂糖がまだ貴重な世の中であるため、一般にはなかなか出回らないのだ。キラキラの目になっているラーナを、レイノルズが嬉しそうに見つめていることを、本人は知らずにケーキに釘付けになっていた。
「そしてもうひとつ…」と言ってレイノルズが出してきたのは、白いバラの花束。一瞬にしてその場が明るくなり、爽やかな香りが広がる。
「棘は取ってあるので大丈夫ですよ。」と、ラーナに手渡した。手に持った瞬間、バラの香りがフワッとラーナを包んだ。
『こんなにたくさんのお花…もらったことないわ。…花束ってこんなに嬉しいものなのね。』ラーナの顔がうっとりとしているのも、レイノルズは見逃さなかった。ラーナはお礼を言うべく、恐る恐る彼を見た。
『大丈夫だ。…よかった、今日は殿下しか見えていない…。集中、集中!』
「殿下、お心遣い痛み入ります。お菓子も、お花も、こんなに素敵な贈り物をいただくのは初めてで…とても嬉しいです。ありがとうございます。」ラーナの言葉と態度に、レイノルズもようやく安堵したように笑った。
「せっかくなのでこちらのケーキ、今殿下とご一緒にいただいてもよろしいですか?」
「もちろん。」
テーブルには白バラが飾られ、その後切り分けられたケーキも置かれ、優雅なお茶会となった。ラーナは問題なく、レイノルズと会話することができた。穏やかな時間が過ぎていき、
『よし!大丈夫だ。この調子で和やかに終わらせよう。』と、ラーナが思った直後、レイノルズが言った。
「ラーナ嬢、ご迷惑でなければ、少し二人でお話できませんか?」ラーナとフィルに緊張が走った。すぐにフィルが、
「申し訳ございません、殿下。万が一前回のようなことがあれば、殿下にご迷惑をおかけすることになります。できれば私もおぞばに置かせていただけないでしょうか。」と申し出た。
「フィル、心配はわかるが、今度はあのときのようにならないよう、私が注意しておくから大丈夫だ。少しの時間でいい。ラーナ嬢と二人で話させてはくれないか?」そう言われては、もう断ることはできない。ラーナは考えた。そしてフィルに言った。
「お兄様、殿下もこうおっしゃって下さいますし、私も大丈夫ですわ。中庭の東屋を使ってもよろしいでしょうか?」
『あそこなら、お兄様が屋敷から見ることができる。はっきりとは無理だろうけど…』
フィルも瞬時に理解したのか、
「わかった。お前がそういうなら…。殿下、妹をよろしくお願い致します。」と少し静かな声で答えた。
外は穏やかな風が吹いていた。クリスガルド家の庭園の中にある東屋は、屋敷からそう遠くは離れておらず、庭の花に囲まれ、ほどよいところに位置していた。真ん中には白い丸テーブルが置かれ、4脚の椅子が揃えられていた。カイリは屋敷の入り口で待機することになったが、それ以外は人払いされた。
『家族以外の人と二人きりになるのは、これが初めてだわ。しかも相手はレイノルズ殿下。集中しなきゃ!』ラーナは気合を入れた瞬間、殿下に謝罪していないことを思いだした。
「殿下、遅くなってしまいましたが、先日は失礼致しましたこと、心よりお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした。」ラーナが切り出すと、レイノルズは少し慌てた様子で答えた。
「あなたが謝ることではない!体調不良の中、無理をして登城したのではないかと心配していたのだ。何事もなかったようでよかった。………涙したのは、極度の緊張から…と言うのは本当だったのか?」
「はい、本当でございます。」ラーナは目を伏せた。
「では、もうひとつ尋ねても良いだろうか?」ラーナは目を伏せたまま答えた。
「はい、殿下、なんなりと。」
「………ショータ、とは何なのだろうか?」
その瞬間、見開かれたラーナの目を、レイノルズは見落とさなかった。




