お出迎え
クリスガルド家は朝早くから多忙を極めていた。特に執事のハロルドは、料理人、侍女、そして庭師にもあれこれと指示を出し、額にはじんわり汗をかいていた。テスは数回ころび、ハンナはよろよろしていた。
数日前、王宮から連絡が入った。レイノルズ殿下がラーナの見舞いに来られると。
ラーナはすでに回復していたのだが、次の登城日を王宮にどう打診したものか、父とともに考えあぐねていた。そんな折届いた訪問の知らせ。父は、
「ちょうど良かったのかもしれないな。断る理由もない。ありがたくお受けしよう。」と、早速返事をした。
『…私も、ちゃんと殿下に謝らなきゃ。』
いよいよ明日が訪問の日となった夕食の席で、父が皆に諸注意を伝えた。
「明日私は当然王城にいる。そしてどういうわけか、ロゼッタは王妃殿下に呼ばれている。よってフィル、あとはお前が頼りだ。殿下を大広間にお通しして、ラーナのそばについていてやってくれ。その他の事はハロルドに頼んでおいたから問題ない。」
「承知しました。」フィルの返事のあと、父の視線がラーナに向けられた。
「ラーナ、何も心配することはいらない。ただ悪気があったわけじゃないとしても、前回の登城時のこと、ちゃんと謝罪することを忘れずにな。」
「はい、お父様。」ラーナは沈んだ声で言った。
「大丈夫よ、ラーナ!殿下はよっぽどラーナに会いたいのよ。王妃殿下が私を呼んだのも、殿下とあなたを二人きりにしたいのかも!」母は何やら嬉しそう。反対にフィルが、
「そうはいきません!私がおります。兄として、妹をしっかり守りますので!」と鼻息も荒く言った。
「殿下がお見舞いに来られるだけなのに、何から守るのよ…」母があきれている。フィルも負けない。
「クリスガルド家の家訓、その四、ラーナを他人と二人きりにしないこと!死守します。」
「…家訓ではないぞ。」父はもうあきらめた様子だ。
そんなこんなで?いよいよ明日、殿下が来られる。ラーナの心配は他でもない、殿下と将太が重なって見えること。
『意識を殿下に集中すれば、何とかなるはず。もしまた将太が見えたとしても、絶対泣いたりしちゃだめだ。将太はもういない。あれは将太とは別人の殿下。殿下も、家族も、これから知り合うであろう人たちも、私の前世の記憶のせいで苦しめてはいけない。そう、私はもうこの前世の記憶と決別しなきゃいけないんだ。私は…もう奈央じゃない。ラーナだ。』
青い空、白い雲、小鳥のさえずり、柔らかな風、騒がしい屋敷、………絶好の訪問日和だ。
執事のハロルドの息が上がり、テスが床に倒れ、ハンナが茫然自失となったころ、ようやく屋敷の準備は整った。メイド長のジルが、全員にお茶を入れてくれた。
「みんな、ありがとう。レイノルズ殿下が来られるまで、少し休憩しよう。」フィルの言葉に、皆が安堵の息をもらした。と同時に馬車の音が聞こえ、皆の顔が一斉に青ざめた。テスはもう半泣きだ。瞬時にフィルが叫んだ。
「みんな!とにかく深呼吸だ!」スーーーハーーー。
「そして一気にお茶を飲んで落ち着け!」ゴックン。アチ!アチッ、アッツ。
「よし、もう大丈夫だ!」何が?
「レイノルズ殿下をお迎えするぞ!」「………オォー……」皆、息も絶え絶えに玄関へ向かった。




