準備
12歳の誕生祝いは屋敷にて盛大に行われた。プレゼントは過去最大の質と量を極め、加えて、それらの品々を集めるのに費やした時間も費用も、過去最大だった。内容は主に王城用衣装、小物一式だ。奈央の時代にはもちろん、ラーナ史上見たこともない豪華な衣装に囲まれて、戸惑いを隠せないラーナだった。
『どんだけお金つかったのよ…。もったいないなぁ。私、これからも成長しちゃうよ?使わなくなったの、買い取ってくれるところあるかなぁ。』と思うも、両親の張り切り様を見ては、そんなことも言えない。
ラーナの部屋から明るい声がもれていた。
「ラーナ、こっちのドレスも着てみて!あ、髪飾りはこれを合わせてみて。」と、母ではなくフィルが率先してスタイリストをやってくれているところだ。
「うん!やっぱりこっちの紺色のドレスがいいよ!うちのラーナは世界一かわいいな!」ご機嫌なフィルを、テスとハンナがうらめしそうに見ている。本来ラーナの身の回りの世話は二人の仕事なのだ。
明日はいよいよ謁見の日。初めての登城だ。この日のために学び、多くの時間を訓練に割いてきた。その甲斐あってラーナはついに、力をコントロールできるようになった。今後誰を相手にしても暴走することはない。それ以前に、誰の前でも力を使ってはいけないのだ。
『うっかりミスをしないように、常に気を緩めてはいけないわ。』ラーナは自分に言い聞かせてきた。
「ラーナ!世界一かわいいぞ!」父と母が部屋に入ってきた。
「お父様、お母様!お兄様が明日の謁見はこのドレスがいいと言われるのですが、いかがで……」ラーナが言い終わらないうちに、
「ラーナならなんでも似合うぞ!今のもとても似合っている!なぁ、ロゼッタ!」母がクスっと笑って、
「ええ、そうですわね。明日は初めて陛下と殿下にお会いするのだから……、そうね、この落ち着いた青はとてもいいと思うわ。」と言った。ここぞとばかりにフィルが、
「そうでしょう!母上!聞いたか?ラーナ!お兄様の見立てに間違いはなかっただろう!?」と、どや顔だ。ラーナの愛想笑いと同時に、父が真面目な顔になって切り出した。
「明日、私はいつも通り先に登城している。ラーナはフィルと一緒に、時間に余裕を持ってくるんだぞ。謁見の時間になったら、私も陛下にご一緒して謁見の間に向かう予定だ。決して遅れるなよ。フィル、頼んだぞ。」
「はい、父上。お任せください。」二人のやり取りを聞いて、ラーナに緊張が走る。それを見た母が、
「大丈夫よ、ラーナ。普段通りにしていれば何の問題もないわ。」とラーナを抱きしめた。ラーナは胸が熱くなった。
「はい、お母様。」
『大丈夫。家族が支えてくれている。いつも通りの私でいよう。』
そしてついに謁見の日当日の朝。
『食事が喉を通らない…。』ラーナは朝食を睨みつけていた。
「おいおい、ラーナ。そんな怖い顔するな!かわいい顔が台無しだぞ。」父がやれやれと言った顔で諭してくる。母もクスクス笑って、
「料理が震え上がっているわね。」と言った。二人ともなんとかラーナの気持ちをほぐそうとしているのがわかる。
「でもお父様、お母様、食欲がないんです!」ラーナは半べそをかいている。そんなラーナの隣で、フィルがパクパク食べながら言った。
「今のうちに無理してでも食べておかないと、御前で腹が鳴るぞ。」
「っ!?」
『それはダメ!超絶恥ずかしいわ!』ラーナが深刻そうに固まった。それを見てフィルが続けた。
「よし、腹がなりそうなときは、俺にわかるように右手だけをギュッと握れ!」
「なぜ?」
「そのときお兄様が鼻歌を歌ってやる。」ラーナは面食らったが、おかしくなって吹き出してしまった。
「アハハハハ!お兄様、それって不敬にあたりませんの?」
「お前のためだからしょうがない。陛下や殿下に、かわいいお前の腹の音を聞かせるわけにはいかないだろ。」フィルが真剣な顔で言うのがさらにおかしかった。父と母も笑っていた。
フィルのおかげで心が軽くなったラーナは、なんとか朝食を終えた。
「フィル坊ちゃま、ラーナお嬢様、馬車のご用意ができました。そろそろ出発のお時間かと。」ハロルドが知らせに来てくれた。
「ありがとう、ハロルド。さぁて、お姫様、私フィル・クリスガルドが責任を持って、お城までお連れ致します。」とフィルが少しいたずらな目をしてお辞儀をし、手を差し伸べた。ラーナはクスっと笑って、右手を乗せた。フィルはいつもラーナの心に寄り添ってくれる。頼もしい兄のことを、ラーナは心から尊敬していた。
『何があっても、フィルが守ってくれる。落ち着いて行くんだ。』ラーナは自分自身に気合を入れて、馬車に乗り込んだ。




