猶予
それからしばらくして、父の予想通り、陛下直々にラーナを謁見させるよう王命が下った。理由はやはり、レイノルズ殿下の学友候補として、ということだった。父は了承したが、
「お言葉ではございますが、ラーナは体が弱いことで精神的にも落ち着いていないため、殿下のご学友にはふさわしくありません。心身ともに健康な状態で登城させたいと思っております。つきましては今しばらく療養のためにお時間をいただきたいのですが…。」と申し出たそうだ。健康面の危惧をないがしろにしてまで登城を要求すれば、王家と言えど貴族たちに角が立つ。
「ラーナ!喜べ!12歳からだ!城に出向くのは12歳になってからとお許しがでたぞ!」と父が喜びで鼻息も荒く帰宅し、ラーナを抱きしめた。久しぶりに見るデレた顔だ。母も嬉しそうにやってきた。
「もう明日からでもお呼びがかかるのではと冷や冷やしておりました。どんな技を使われましたの?」父がドヤ顔でことの経緯を話してくれた。
『12歳からか…あと1年と数か月余裕がある。』ラーナは少し安堵した。延長されたと言えど、王家に自分の存在をさらすということに違いはない。それでもこの延長を家族が喜ぶのには理由があった。ラーナの治癒力は、家族の前では制御不能になることが多々あったからだ。
ある夜、地下室で定例の家族会議があったときのこと、母の手に溶けたロウソクが落ちたことがあった。それを見たと同時に、ラーナの体が光を放った。正確には、光は両手のひらから出ているのだが、光が強すぎて、ラーナの体全体から放たれているように見えるのだ。
またある日は、父が騎士団での訓練中にケガをしたと、頭から血を流し、部下に連れられて帰ってきたことがあった。このときは父のみならずラーナまでピンチだった。母と地下室にいたラーナは、光をまとったまま部屋から出ようとして、慌てた母に止められたのだ。その後は光が屋敷内に漏れ出ていなかったか、ドキドキしながら地下室で待機していた。顔を血まみれにしたデレデレの父が入ってきたときには、言葉に表せない恐怖を感じたラーナだったが、そんなことはお構いなしの父は、
「そんなにお父様のことが心配だったのか⁉そうかそうか、ラーナはお父様のことが一番好きなんだな!」と、自分の都合の良い解釈をして、しばらくラーナを抱きしめていたのは少し前のことだ。
飛べなくなった小鳥や、ケガをして迷い込んだウサギは、落ち着いて治すことができた。しかも放出された光もごくわずか。これから察するに、身内、おそらくそれ以外でも、これから親しくなるであろう人間に対しては、制御が難しくなる可能性があるということだ。ラーナも、そして家族も、それを一番懸念していた。もはや王城に上がること自体はあきらめ、というより致し方のないことであるため、いつのまにか自然と受け入れられていた。が、問題はラーナ自信の能力だった。そこにきて12歳まで猶予ができたということは、その猶予期間中に制御の訓練ができるということを意味するのだ。
そうと決まれば訓練あるのみ。だた治癒力の制御法についてなど、記録もなければ書籍もない。ラーナは奈央の記憶を探った。とにかく力を暴走させないということは、常に平常心で、何が起きても乱されない強靭な心を作り上げることが鍵となる。『座禅』この言葉がラーナの頭をよぎった。『確か心を静めて、気持ちを無にする?そうすることで……なんだっけ?』奈央の記憶も適当だ。ただ他に何が効果的なのかわからない。『とりあえずやるだけやってみよう。』ラーナは坐禅を組み、心を落ち着かせることから始めた。その後はブランコの丘で、自然の声を聞きながら瞑想することもあった。そしてこれらの思い付き療法は、ラーナの能力に、またその能力制御に、格段の効果を示した。
12歳になるころには、ラーナは秘めた能力を持っていること以外、どこからどう見ても、見目麗しい公爵令嬢になっていた。




