秘め事と決め事
「ラーナ、お前は生まれたころから聡い子だった。このことも4歳の子供にする話ではないと思うが、おそらくお前はほぼ理解しているのだろう。だからこそ常々、ロゼッタと心配していたんだ…」父は少し寂しそうな顔で言った。
「ラーナ、これからお母様が話すことも内緒の話よ。」母の言葉に、フィルもラーナも再び息をのんだ。
「お母様も治癒の力が使えるの。」その言葉に二人の体が小さく動いた。フィルも知らなかったらしい。
「でもね、お母様の力はそんなに大きくないの。だけど大事になってはいけないから、お父様以外、周りには秘密にしているわ。そしてもしかしたら、生まれてくる赤ちゃんにも、この力が宿るかもしれないと思っていたの。」母の言葉に、父も続けた。
「この国では治癒の力を持って生まれてくる人間が、ごくわずかだがいるんだ。ただロゼッタが言うように、皆その力が小さい。小さ過ぎて気付かずに一生を終えるものもいるくらいなんだ。だがロゼッタの治癒の力と、今日フィルが話してくれたラーナの話を比較すると……明らかにラーナの力の方が大きい。」皆、言葉を発することができずにいた。
「さらに4歳の子がそれだけの傷を治したとしたら、年齢を考慮しても最低一週間は動けないはずだ。」フィルとラーナは驚きを隠せずにいた。ラーナの瞳には恐怖の色さえ映っていた。
『…話についていけなくなりそう。私は…何者なの?』震えるラーナの手をフィルが握りしめて言った。
「父上、聞いてもよいですか?先ほどされた聖女リーシャのお話と、今されているラーナの力のお話…。父上はラーナが、その何百年に一度現れるかもしれない聖女とお考えですか?」父と母の顔に暗い影が落ち、二人に隠し切れない悲壮感が漂っていた。
「まだ決まったわけではない。どれほどの力を持てば聖女と言えるのか、そういったことが記載されているものが、我が国に一切ないのだ。私は立場上、陛下のおそばで国の安寧を見守ってきたつもりだが、…これまでにラーナほどの力の持ち主を、見たこともなければ聞いたこともない。…ということは、現状ではラーナが聖女リーシャの力に一番近いところにいる、としか言えない。そしてそれは、国を揺るがすほどの事態だ。」再度、皆が黙り込んだ。
「私…どうなるの?」ラーナが恐る恐る聞いた。
「…お前の力が王家に知られれば、宮仕えとして王城で過ごすことになるだろう。王家の管理下におかれ、力を強要されたりするかもしれない。妃にと召し上げられる可能性もあるだろう…。早いうちに知られれば、それだけ早く…ラーナは屋敷を出ていくことになるかもしれない。」父はうつむき、テーブルの上に置かれた拳をギュッと握りしめた。
「うわーーーーーーん!!」ラーナは思わず泣き出した。
『怖い…人から支配されて生きていくなんて…。それに…前世の記憶を持って転生した上に、治癒の力なんて…。私の転生には、何か意味があるの?でも意味があったとしたら…すごく…怖い…。私はこの世界で生きていくために、何をすればいいの!?』肩を揺らして泣き叫ぶラーナを、フィルが優しく抱きしめた。
「…そうならないために、こうしてお前たちに話すことを決めたんだ。これから言う五つのことを必ず守るんだ。いいな?」皆がうなずく。父が決めたことはこうだ。
一、絶対に他言無用。屋敷に仕えるものにも話してはいけない。
二、ラーナはいかなる状況であっても、人前で力を使わない。
三、ラーナは母とともに力を操作できる訓練をする。
四、ラーナを他人と二人きりにしないこと。
五、皆でラーナを守ること。
「これができれば、今まで通りの生活ができるはずだ。」そう言って父は席を立ち、ラーナを抱き上げた。
「大丈夫だ、ラーナ。どんなことがあっても、お父様が守ってやる。」
「あらあら、お母様だってラーナのそばにいるわよ。」
「僕も!今まで通り、ラーナといつも一緒にいるからな!」
母とフィルも寄ってきて、三人でラーナを抱きしめた。ラーナは涙を止めることができなかった。
『この温かい家族があったから、私は奈央としての悲しみを乗り越えて生きてこれた。…これからもきっと大丈夫だ。』ラーナはそう自分に言い聞かせて、涙を拭いた。




