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二人で転生しました!が、  作者: 西野ゆいと
今世編

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15/21

過ち

ラーナは屋敷の半地下室に連れてこられた。地下だが光の差す窓が天井近くにある。こんな部屋があったとは驚きだ。これだけ大きな屋敷だ。まだ隠し部屋なんかが出てきそうだ。ラーナは緊張と興奮で目がギラギラしていた。人払いがされ、部屋には父と母、それにフィルとラーナのみ。内側からは鍵がかけられた。


あのあとラーナを抱えたまま、息を切らせて屋敷に帰って来たフィルは母を探した。その様子を見た母は、フィルの破れて血がにじんでいるシャツに一瞬目を走らせ、何も聞かないうちに王城へと早馬を出した。そして私たちを座らせ、聞こえるか聞こえないかの小さく細い声で言った。

「お母様がいいと言うまで、まだ何も言わないで。」フィルは神妙な面持ちでコクリとうなずいた。ラーナはフィルに抱っこされたままで、兄の背中に回していた手をギュッと握りしめた。母が侍女にお茶を用意させ、それを一口飲んだところで、今度は父が血相変えて、息を切らせて帰ってきた。繰り返される呼吸で、肩は大きく揺れていた。母に促され、お茶を飲んで呼吸を整えた父は、黙ってラーナを見ていた。そしてため息交じりの呼吸をしたあと、意を決したように立ち上がり、皆をこの部屋に連れてきた。


部屋には光は入るものの薄暗く、テーブルと椅子が四脚のみ。明らかに内密の話用の部屋だ。父と母、ラーナとフィルが、横並びで向かい合い座った。しばしの沈黙のあと、母がフィルに向かって言った。

「いいわよ」

フィルは動揺していたが、なるべく落ち着いて話をしようと努めているのが見てとれた。兄と言えどまだ9歳。ラーナは心の中でフィルの態度に感心していた。何が起きたのかを一通り聞いたあと、父も母も無言で二人を見つめるだけだった。ラーナは最初から気になっていた。フィルが話し始めたときも、話の途中でも、二人が驚く様子を見せなかったからだ。

『……お父様もお母様も知っていた……?』沈黙の中、小窓の外で小鳥が鳴いているのが聞こえる。最初に口を開いたのは母だった。

「フィル、ラーナを守ってくれてありがとう。あなたの判断と行動は正しかったわ。立派に育ってくれて、お母様はとても嬉しいわ。」フィルは少し照れながらも、誇らしそうに胸を張っていた。

「それからラーナ、フィルの傷を治してくれてありがとう。あなたがいなければ大変なことになっていたわ。」母はフィルの腕を見ながら、少し顔をこわばらせて言った。ラーナは申し訳なくなって

「でも私のせいなの…お兄様がケガしちゃったの…。ごめんなさい。」涙ぐみながら言った。

「そうだとしても、よ。わざとしたわけじゃない。これは事故だったのよ。それを二人でよく乗り切ったわ。」母の優しい声が心にしみる。

そして黙って聞いていた父が、ようやく重い口を開いた。

「フィル、ラーナ、これから大事な話をする。だがこれは誰にも知られてはいけない話だ。ラーナはわからなくてもちゃんと聞くんだ。フィル、ラーナが理解できない分はお前が補って、ラーナを見守って欲しい。」二人はコクンとうなずいた。いつものデレデレ顔ではなく、こんなに真剣な表情の父を見るのは初めてのことだった。それから父が話してくれた。この国の歴史の一部とも言える長い話を。


時は300年ほど前に(さかのぼ)る。当時も君主制国家だったグリナリア王国は、今と変わらず、広大で豊かな土地と抱負な資源、万が一の有事にと訓練された屈強な騎士団を備え、大国としてその名を近隣諸国に知らしめていた。ある日当時の第二王子が山へ狩猟に出かけ、帰ってこなかった。王家は騎士団を総動員して探したが、見つかったのは王子の所持品だけ。それも山から流れ出る、川の下流でだった。王子はなんらかの事故で川に転落し死亡した、ということで捜索は打ち切られた。ところがそれから2~3年ほどして第二王子の生存が確認された。辺境へと赴いていた騎士達が、宿をとった村で王子を発見したのだった。王子の顔を知っていた騎士が駆け寄り声をかけたが、反応がなかった。王子は記憶を失っていた。どんなに話をしても、自分は王家のものではないと話を受け入れず、その地を動こうとしなかった。王子には結婚を約束した村娘リーシャがいたのだ。(かたく)なに王家に戻らないことにしびれを切らした王妃が、じきじきに村を訪れ、強引に王子を連れ帰った。王子は王家に留まる代わりに条件を出した。リーシャを婚約者と認め、王家に迎え入れるようにと。その後、王子とリーシャは婚約の儀を執り行い、穏やかに過ごしていた。が、ある町で流行り病が発生した。致死率が高く、皆が恐れる中、国もあらゆる薬を試したが効果はなかった。徐々に国中に広まり、ついには王城へと手を伸ばし始めた。そして第二王子が病に倒れた。が、死には至らなかった。リーシャは治癒能力の持ち主だったのだ。川で瀕死の状態で倒れていた王子を救ったのも、リーシャだった。ただしこの力は回復までに時間がかかる。治癒に要した力が多ければ多いほど、リーシャの体に負担がかかるのだ。そしてその力が王家に知られてしまった。リーシャは体も癒えぬうちに王族の治癒を強要され、ついには命を落としてしまう。自分がリーシャを愛し、王家に引き入れてしまったがために彼女は命を失った。そのことをひどく悔いた第二王子は、剣を持って第一王子のもとへ向かい、その首に剣を突き付けて言った。「彼女は数百年に一度現れるか現れないかと言われる聖女だった。聖女殺しの罪でお前たちの一族は滅びに向かうだろう。そして国も滅びる。そのときお前はもはや王でもなんでもない。国もなければ民もいない。お前は一人の人間として死んでいくだけだ。ひとつだけ教えてやる。その道を進みたくなければ、聖女を丁重に埋葬しろ。そして毎日(とむら)って許しを乞え。もし彼女の魂が許してくれれば、滅びの道を避けられるかもしれない。許してくれれば、の話だ。そしてこの事実を王家で語り継げ。お前がそれをしないようなら、王家が聖女殺しをしたことを国中、いや世界中に広めてやる。第二王子が言うことだ。人は信じるだろう。どうする?俺の言うことを聞くか?それともこのまま俺に殺されるか?」第一王子は受け入れ、第二王子は王家を去って行き、そのまま行方知れずだったという。それから王家の庭園の隅に聖女を埋葬し、碑が建てられた。ただしその碑には何も刻まれていない。


「私たちが今こうして平和に暮らしているということは、聖女リーシャが許して下さったということだろう。そして今でも、この国の王となったものは毎日、聖女の碑に謝罪と感謝の思いを伝えに行かなければならない。現陛下も毎朝碑においでだ。この話は王家とその側近のみに口承で受け継がれている話であり、知ったものには緘口令が敷かれている。よってこの話は絶対に他言無用だ。わかるな?」フィルとラーナは黙ってうなずいた。

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