困惑
そんな毎日を繰り返し、奈央はなんとか現状を理解していった。
『私、生まれ変わったんだ…』奈央の頭に、『転生』の文字が浮かんだ。人は体を失っても魂は残り、また新たな肉体を得て新しい人生を歩む。そういう考えもあるということを聞いたことがある。それが正しいとしても、前世の記憶を引き継ぐことはないはずだ。なぜなら実際奈央は彼女の人生において、前世の記憶など微塵も持ち合わせていなかったからだ。となると輪廻転生があるとして、奈央はラーナとして生まれ変わったが、奈央の記憶を失うことなく転生したということだ。
『前世の記憶なんて、いらなかったのに…』そう考えて何度も泣いてしまう。思い出す限り、奈央は将太と幸せの絶頂にいたはずだった。あのとき、おそらく二人で事故にあったと考えるのが妥当だろう。ただ青信号の横断歩道に急に現れた光?車?見えなかった分だけ、不可解なことが多い。そんな中唯一目に映ったものは大きな片翼、羽のようなものだった。全くもって理解不能だ。
『一番現実的に考えて、私も将太もあのときに命を失った。そして私だけがここに生まれ変わった。私だけ…?将太は?……将太がここにいないということは、もしかして助かっているかもしれない!生きているかもしれない!』奈央は久しぶりに嬉しさが込み上げてきた。が、その直後一瞬にして気持ちが急降下した。
『将太、寂しがってないかな?寂しがってるよね、きっと。…ずっと一緒だったんだもん。寂しすぎて一人では生きていけないかもしれない。他の誰かが支えてあげなきゃ…。』自惚れているわけではなく、奈央は将太から掛け値なしに愛されていた。だから容易に想像がつく。将太が奈央のいない世界で生きていくことが、どれだけ困難を極めるかを。そしてそれは奈央にとっても同じことだった。将太の記憶を残したまま、将太のいない世界で生きていく。これから何年、何十年と…。そしてその孤独に耐えられず、他の男性に身を委ねてしまうかもしれない。…将太も、同じかもしれない。そう思うと、胸が苦しくてたまらない。
『これから将太は誰と恋に落ちて、どんなキスをして、どんな家庭を作っていくの!?……いやだ!そんなのいや!将太!将太ぁ!』
「ふぎゃあぁぁぁ!ぎやぁぁぁぁ!」奈央、じゃなくラーナが泣き出した。
そばにいたハンナが飛んできた。
「ラーナお嬢様!どうされましたか?」すぐに体が浮いた。ハンナの抱っこだ。ハンナは幼い兄弟の面倒を見ていたようで、抱っこが上手だ。
『ハンナ、ありがとう。考え過ぎてパニックになっただけだよ。心配かけてごめんね。』
あやすハンナの手が温かくて、優しい揺れが心地よくて、心がゆっくりと静かになる。
『ああ…涙を流す将太にも、こうやって誰かがそばにいてくれるだろうか。悲しい思いを背負って一生を終えるくらいなら、どんな人でもいい。女だろうが男だろうが、どうだっていい。どうか将太が悲しみを忘れて、幸せな人生を歩んでくれますように。』そう願いながら、奈央は眠りについた。




