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二人で転生しました!が、  作者: 西野ゆいと


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11/20

喪失

見渡す限りの白い光。

何もないのか、眩しすぎて何も見えないのかわからない。

「バサッ」

羽音が聞こえた。

一瞬見えたのは、白い大きな片翼。

真っ白な世界に真っ白な翼。


見えたものはそれだけ。

でも世界は”それだけ”、ではない、ということはわかる。

何かがない。

何かが足りない。

何か大事なもの。

とてもとても大切なもの…。

忘れてはいけないこと。

忘れたくないこと…

早く…思い出さなきゃ。


私、大事なことを忘れてる……

私、私は? 私は……誰?

やだ、やだ!なんなの!?

自分が誰なのかわからない!

誰か…誰か助けて!


そうだ!

…しょ、……しょう、……しょう?

しょう……

この音が頭を駆け巡る。

何か大切なことだった。


しょう……

………しょう、た……

しょうた。

そうだ!将太!


私は……私は…奈央だ!私は奈央よ!

将太はどこ!?

将太!私はここだよ!早く見つけて!

………

………

ずっと一緒って約束したじゃない…

どこにいるのぉ?……

お願い、一人にしないで!っ…

将太ぁ!!


「おぎゃあああああ、ぎゃ…ぎゃ…ぉぎゃあああああああ!」

赤ちゃんの声?ごめんね、かまってあげてる暇はないの。泣きたいのは私の方。

将太を探さなきゃならないの。この真っ白な世界で、早く将太を見つけなきゃ。将太ぁぁ!!!

「おぎゃあああああ!!」

ん?


かすかに遠くで誰かの声が聞こえる。何?誰?将太!?

「奥様!可愛らしい女の子でございます!」そんな言葉が聞こえた気がした。

赤ちゃん?ああ、新しい命の誕生ね。よかったわね。でも違うの。私は急ぐの。将太ぁぁぁ!!!

「おぎゃあああああ!!」

ん?ん?


「あらあら、とっても元気のいいお姫様ね。」別の優しい声が聞こえた。

真っ白な世界で聞こえた、二人目の誰かの声。温かなぬくもり。私、何かに包まれているような気がする。そうだ、さっきも将太に抱きしめられていたんだっけ……。将太、どこ?どこに行ったの!?

「おぎゃあああああ!!お、お、お、ぎゃあああああ!!」

ん?ん?ん?


もう、いいや…。今日のところはあきらめよう。ちょっと疲れた。ひと眠りしたら、将太を探しに行こう。



『私…どれくらい寝てたんだろう。早く将太を探しに行かなきゃ。よいしょっと。』

奈央は立ち上がろうとするが、うまくいかない。そうこうしていると、久しぶりに視界に人が映った。

黒服の初老の女性だった。

「あらあら、まぁまぁまぁ!お目覚めですか?お嬢様!まぁまぁ可愛らしいお目目だこと!奥様にそっくりの美人さんでいらっしゃいますね。今お母上を呼んで参りますね。」女性が立ち去ったあとは、若い女性が入れ替わりで二人、視界に入ってきた。

「きゃーーーー!なんて愛らしいの!?お嬢様、私テスといいます。よろしくお願いしますね。」

「まぁ、自分だけずるいわよ!私はハンナといいます。たくさん抱っこして差し上げますね。」

今度の二人はメイド服のようなコスプレをしている。

『……どうなってるの?私に話しかけてるわけじゃないよね。この人たち、明らかに”幼いお嬢様”に向かって話しかけてるのよね。』奈央の頭はパンク寸前だ。

『でも今視界に映ってることは、まるで横たわっている私に、誰かが覗き込むように話しかけている感じだ。…とにかく起き上がってみよう。』と、手をベッドに突こうとするも、体が思うように動かない。

『あれ?私の手、どうなってるの?』手を見ようとして視界に映ったのは、直径数センチほどの右手だった。

『あれ?』次に視界にやってきた左手も同じ。

『え?私の手、なんでこんなに小さいの?あ!ああ!そうか、これは女性たちが話しかけている赤ちゃんの手なんだ!それが私に見えてるだけだわ、きっと。』そう思った。そう思いたかった。

『…………赤ちゃんの手じゃなくて、私の手、どこ?ちょっとグーパーしてみようかな。グー…。』赤ちゃんの手が動いた。

『…………パー…』グーだった赤ちゃんの手がパーになった。

『どういうことよ!?私、どうなってるのよ!?なんで私の手、赤ちゃんの手になってるの!?わかんないよ!誰か!将太!将太ぁ!!』

「おぎゃあああああ!!」

『この鳴き声は、私だったの!?もう、何がなんだかわかんない!!』

「おぎゃあああああ!!おぎゃあああああ!!」

「あらあらまぁまぁ、どうしたの?私の可愛い子?」翡翠色の瞳に栗色の髪、見たこともないほどのキレイな人が覗き込んできた。

『残念、そのヒラヒラのドレスはやりすぎだよ。コスプレもほどほどにしないと。』奈央が思った瞬間、体がフワッと宙に浮いて、その女性に抱っこされたことに気付いた。

『ああ、なんでだろ?落ち着いてしまう。この人のこの温かさが心地よい。将太のとは違うけど。……将太、どこ?私、どうなっちゃったの??』

「び、び、びええええーーーーーーん!」

「あらあら、何がそんなに悲しいのかしら?お母様がいるわよ。たくさん泣いたら、またねんねしましょうね。」

『お母様?あなたが?私は、黒髪に黒い目だよ?なわけないじゃん。』

急にドアがバターン!と激しく開いた。同時に

「ラーナ!」と言ってイケメンのおじさん?お兄さん?が入ってきた。

『あなたは誰?ラーナはどこ?』

「泣き声が部屋の外にまで聞こえていたぞ!おおラーナ、どうしたんだい?ほら、お父様のところにおいで。」とその男性が言った途端、またフワッと体が宙に浮いて、奈央はその男性に抱っこされていた。

『情報過多だ…思考回路が遮断されそう。』奈央は現状を整理することにした。

『なぜだかわからないけど、私は今、赤ちゃんの体になっている。入っている?とにかく今、私は赤ちゃんだ。名前はラーナ。今抱っこしているのがお父さん。さっきの抱っこはお母さん。そしてその他のメイド喫茶の女性たちがお手伝いさんだ。………で、私にどうしろと??将太!将太ぁ!』

「おぎゃあああああ!!ぎゃあああああ!!びやぁあああああああ!」奈央、またの名をラーナ、はさらに激しく泣き始めた。

「おお、おお、よしよし、いい子だ、いい子だな、ラーナ。」父の顔はデレデレになっている。

「あなた、抱っこが上手になられましたわね。」母がニッコリ笑った。

「お前のおかげだな。」ウフフ、アハハ…そして部屋は和やかな空気に包まれた。めでたしめでたし。

『もう無理。寝る。』奈央、改めラーナが目を閉じたと同時に、ドアがバターン!と開いた。

『デジャブ?』

「ラーナ!どうしたの!?兄上が抱っこしてあげる!」と言って5歳児ほどの少年が入ってきた。

『もうほんとに無理。寝かせて。』

「こらフィル!公爵家跡取りがそんな風にドアを開けるものではないぞ。」父が言った。

『どの口が言うのよ。』

「フィルはここに座って抱っこしてね。」母が促す。

「えーーー!?立ってでもできるよ!」

『やめれ。もちっと大きくなってからな。』

おそらく兄であるフィルが、まだ短い両腕で必死に奈央?ラーナ?ナーナ?を包み、フィルの両腕を支えるように、父と母の手が重なる。

『ああ、もうダメだ。温かい…。睡魔が襲ってくる。悔しいけど心地いい。家族だからなのかな…。そういえばお父さん、お母さん、健太…元気かな…会いたいな………』

ラーナ、もとい奈央は吸い込まれるように眠ってしまった。そんな奈央の寝顔を、三人が優しい目で見守っていたことを、奈央は知らずに爆睡してしまった。

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