尻尾
セシアナ王女の目が大きく開かれ、その目にギラギラと異様な輝きが増した。唇の両端は大きく引き上げられ、今にも高笑いが漏れ出そうな顔つきになった。
「そうなんですのね。」静かだが、喜びを隠している声だとわかる。
「ええ、致し方ありません。私は最後まで彼女を信じたかったのですが…、状況から見て、難しくなりました。あなたにも不快な思いをさせてしまった。申し訳ない。」レイノルズの返答に、
「殿下が謝罪される必要はありませんわ。ラーナ様のお気持ちも、わからなくはありません。殿下を愛するがあまり、私をパーティに参加させたくなかったのでしょう。そんな嫉妬心から、ドレスを盗んでしまったのですわ。」半ば嬉しそうに、王女が言った。
「そうかもしれません…。しかも…あんなことまで…。あそこまでするなど…正直、彼女を見損ないました。」レイノルズの悲しみに満ちた表情を見て、王女がすかさず声を上げた。
「そうですわ!あのように、ドレスをナイフで切り刻むなど、人間のできることではありませんわ!そんな狂った方より、殿下には私がおりますわ!」
レイノルズが動きを止めた。それに気付いた何組かのペアも、ダンスを中断した。
「どうしましたの?ご気分でも悪くなりまして?」王女が珍しく戸惑っている。
レイノルズは無表情でセシアナ王女を見て言った。
「なぜ、あのドレスが切り刻まれていたと、知っている?」
王女の顔が凍り付いた。しかしすぐに元の表情に戻り、何事もないような口調で返した。
「もちろん見えまし…」レイノルズは最後まで言わせなかった。
「あの場からは見えない。実証済みだ。もう一度聞く、なぜ、あのドレスが、切り刻まれていたと、しかもナイフで切られていたと、知っている?」レイノルズの目は、獲物を前にした猛獣のようになっていた。
まわりのダンスが、次々に中断されていくなか、セシアナ王女は苛立ちを見せ始めた。そして、
「私、そのようなこと、言ってはおりません。」と不気味に笑った。するとそばにいた男性が口をはさんだ。
「いや、あなたは確かに言ってましたよ。ドレスをナイフで切り刻むなど、と。」イオスだった。
音楽も途中で鳴り止み、会場中の視線が、レイノルズとセシアナ王女に集まり始め、王女に若干焦りが見えた。
「音楽もあったので、聞き間違いをされたの…」王女の言葉を、また誰かが遮った。
「いや、俺もしっかり聞いた。”人間のできることではありませんわ。そんな狂った方より、殿下には私がおりますわ。”とも言っていたぞ。」ザラだった。
王女の顔がみるみる赤くなり、鬼さながらの顔が出来上がったところで、レイノルズが右手をまっすぐに上げた。するとバタバタと何人かの走ってくる音がした。気付けば王女は数名の衛兵に囲まれていた。
「これは…なんですの?」王女の低い声に、レイノルズが大声で答えた。
「ラジニア王国セシアナ王女、殺人容疑、および我がグリナリア王国の国政を乱した罪で、あなたをこの場で拘束する!」




