苦渋の選択
レイノルズは一階奥の控室に向かっていた。後ろからオルバーもついてきている。
これから、ほとんど軟禁状態のセシアナ王女をエスコートしなければならない。レイノルズは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
『ラーナと出会ってからというもの、彼女の手だけを引いてきた。それ以外、触れたいとも思ったことがない。それがなぜ!こんな目にあわねばならぬのか…。』
「殿下、ひどいお顔をされておいでです。これからのことはすべてラーナ様のためです。集中なさって下さい。」オルバーの耳打ちに、レイノルズは我に返った。
『そうだ。ラーナのために、そして俺自身のためにも、なんとしてでも王女を国に返す!そのためなら…なんだってやってやる。』
レイノルズは控室のドアをノックした。
ファンファーレの音が鳴り響き、ホール大階段の踊り場で国王の挨拶が始まった。国王が、留学中のセシアナ王女を紹介し、挨拶を終えた後、一階奥の入場口からは、レイノルズが王女の手を取って入場した。それを見た会場の人々がざわつき始めた。
一国の王女が他国に留学すること自体珍しいが、留学先の皇太子にエスコートされて出て来たのだ。二人の仲はどういうものなのか、勘ぐるなと言う方が難しい。さらには正式発表されていないものの、皇太子には自国に婚約者がいるという噂も流れている。
パーティに招待された各国の王子王女、要人たち、そしてラジニア王国の王子たちも、様々な思惑で二人を見守った。
音楽が鳴り始め、一斉にダンスが始まった。
ラーナと踊ることが、どれだけ楽しく心地よかったか…。この息の合わない不格好なダンスのさなか、レイノルズはラーナとの過去を偲んでいた。
『転ばないようにするのが精一杯だ。この王女、本当にとんでもないな。』嫌悪感を消せないレイノルズだったが、顔には出さないよう努めていた。そのせいか、セシアナ王女が気分を良くしたようで、嬉しそうに話しかけてきた。
「グリナリア王国王子とラジニア王国王女、私たち二人の入場に皆さん、驚いておいででしたわね。」
「私たちというより、あなたの美しさに驚いたのではないでしょうか。」レイノルズはすました顔で言った。
「まぁ」王女のニヤついた顔で吐き気をもよおしそうだった。
ダンスの曲も中盤に差し掛かった頃、王女が言った。
「ラーナ様、お可哀想ですわね。きっと殿下とこのように踊りたかったでしょうね。」王女のこの言葉から、レイノルズは耳をすまし、目を光らせ、全神経を集中させた。
「それなのに私が殿下とこのようになってしまって…。今頃さぞかし悔しがっておいででしょうね。」王女は悪女の顔つきで薄笑いを浮かべて言った。レイノルズは気持ちを静めて、可能な限り言葉を選び、声に出した。
「仕方ありません。今のところ、王女のドレスを盗んだという事実は覆せませんので。」
王女は驚きと喜びの入り混じった、異様な表情で食いついてきた。
「ラーナ様は何とおっしゃっているのですか?」
「彼女は、自分ではないと言い張っています。ですが客観的に見て、彼女以外にあのようなことをできる人間がいないのです。私も信じたくはなかったのですが…。」レイノルズは悲しげに目を伏せた。
「では、今後ラーナ様はどうなるんですの?」王女の顔には、興味と興奮の色が混ざってきた。
「おそらく拘束されて、調査が始まるでしょう。その後彼女が犯人だと確定すれば、…我が国としては然るべき判断で処罰を下すことになります。」レイノルズの言葉に、王女の目がギラついてきた。
「では…では…っ、殿下の婚約者としてのお立場はどうなりますの?」
「もちろん、婚約は破棄されることになりますね。」




