舞台裏 その二
そのころ会場の緊迫感とは裏腹に、ラーナの部屋では、どうでもよいひと悶着が起きていた。というのも…ラーナがカイリと踊ったあと、ドレスの背中のリボンがほどけ、それを見つけたカイリがリボンを結び直したのがきっかけだった。ダンス二番手を勝ち取ったケビンと、泣きながら三番手に下がったノーランが、その二人の姿をうらやましそうに見ていたのだ。そんな二人に気付いたカイリが、二度とほどけないように、きつくリボンを結び直した。そのせいでケビンとノーランが、カイリと対立。無言の、だが目と目の戦いが繰り広げられていた。
「…早くしないと、時間がなくなりますよ。」カイリに諭され、我に返った二人は慌ててラーナと踊るという……なんとも滑稽な、しかし三人にとってはかけがえのない時間が過ぎていた。
その後皆でお茶を飲んで一息ついていた頃、ノックの音がした。
「俺だよ。」フィルだった。
「お兄様!もうパーティは始まっているのでしょう?どうされたの?」ラーナは不安が先走った。
「それが…メルリーナ様が、ラーナを呼んで来いというものだから…」と、フィルも理解できていないようだった。
「会場では陛下の挨拶が終わって、ダンスが始まるところだ。予定では、他の訪問客と一緒に、レイノルズ殿下がセシアナ王女と踊ることになったらしい。」フィルの説明に、ラーナの胸は少し痛んだが、今はそんなことを気にしているときではない。気を取り直してフィルに聞いた。
「それで私も会場に行けばいいの?」
「ああ。メルリーナ様から、二階の控室で待つようにと仰せつかっている。」フィルは、黙って聞いているカイリたちを見ながら言った。
「皆も一緒に来てくれ。急ごう。」
パーティ会場の音楽を遠くに聞きながら、ラーナ達は会場二階の控室へと移動した。部屋にはすでにメルリーナと侍女がいた。
「ラーナ!来てくれたのね。よかった、ドレスとっても似合ってるわ!」メルリーナは本当に嬉しそうだ。
「ありがとうございます。私にはもったいないくらい素敵なドレスで緊張してしまいます。」ラーナの返事に、
「緊張なんてしてる場合じゃないですわよ。もし…私の希望通り、事が上手く進めば…。ラーナ、手短に言うわね。」メルリーナは表情を固くして言った。
メルリーナによるとこうだった。
そもそもレイノルズの計画としては、ラーナと一緒にパーティに出席予定だった。そんな中、苦肉の策としてセシアナ王女とも踊ることを、作戦その一としていたらしい。不幸中の幸いとも言うべきか、ラーナがパーティ欠席となったために、彼女の目の前で王女と踊るという、レイノルズにとってはかなりの不幸から、若干逃れられた感じだ。
作戦その二として、ザラとイオスを随時レイノルズとセシアナ王女のそばに置いておくこと。ダンス中レイノルズについて行く必要があるため、彼らの相手はダンス指導員から選出された。
そして作戦その三は、その一とその二の環境が整った状態で、セシアナ王女から何かしらの情報を引き出すこと。そこまでがメルリーナに伝わると、彼女からレイノルズに以下の提案があった。
「彼女はあまり賢くないわ。こちらから仕掛ければ、かかってくれるかもしれない。話はこうよ。今のところあのドレスの犯人は、ラーナしか考えられない、ということで進めてみるの。そしてそうなった以上、ラーナとの婚約は破棄せざるを得ないと、王女に伝えるのよ。」
ラーナ達が、メルリーナから作戦の真相を聞き終わった頃、会場からの音楽が不自然にやんだ。部屋の皆が顔を見合わせている。
「あちらから見えないように、様子を伺いましょう。」メルリーナが部屋のドアを開けた。




