恐怖(前半三人称)
「……殺される、殺されるわ」
ヨアニスはベッドに潜り込んで震えていた。
「死ねっ、ヨアニス!」
最初はエレンの恩知らずだのなんだのと罵って吹き飛ばそうとしたのだが、幼馴染のその声と魔術用の標的が破壊される光景が時折フラッシュバックするのだ。真夜中に標的ではなくヨアニスの居る寮の扉が断ち割られる夢を見て悲鳴を上げて跳び起きもした。
「なんで……私が」
殺されるほど恨まれるようなことはしていないと壁に向かって訴えた。壁は何も言わない。
「え、ひっ」
かわりに生理現象からベッドを降りた足が何かに当たり、目で追ったヨアニスの顔がこわばった。蹴とばしたのは、絶縁したわがままな幼馴染をざまぁする内容の小説だ。それはまさにヨアニスに言う様だった。
「何もしてない? あなたは幼馴染を絶縁したじゃないですか」
と。
「あ、あれは、っ」
自分以外誰もいない部屋で弁解しようとして、ヨアニスは言葉に詰まる。絶縁に深い理由があったわけでもなく、ただの思い付きからのものだったから。いくらヨアニスでもそれが他人を納得させる理由にならないことぐらいは理解できた。
「あ、あぁ……」
そして連鎖的に思い出す。自分が絶縁すれば補正を失って幼馴染が困ると思っていたことを。実際にはむしろほぼ足を引っ張るだけで恩恵がなかったなどヨアニスは知りもしない。ただ、恩恵を失ったとするなら、あの時見た魔術の効果は異常なのだが、追いつめられているヨアニスはそんなことにも気づかない。ドアがノックされたのは、ちょうどその時だった。
「ひぃぃっ」
ヨアニスは悲鳴を上げてベッドに潜り込み。
「ヨアニス、ヨアニス、空けなさい」
外からの声が女性、教師の一人のモノであることにも気づかず震え続ける。結局ヨアニスの部屋の扉があいたのは、教師が借りてきた寮のマスターキーを使ってのことで。
「ヨアニ」
「殺される、殺されるわ!」
完全におびえた様子のヨアニスは被っていた毛布を振り回しながら喚き散らした。自分を幼馴染が殺そうとしていること、その理由は自分が深い考えもなく幼馴染を絶縁したからであること、その他思いつく限り幼馴染が自分を恨む原因になりそうなことをぶちまけ。
◆◇◆
「と言うことなんだが――」
翌日、教師に呼び出され、俺はあの不愉快生物が授業を休んだ理由を始めて知らされた。
「ああ、それなら」
怒られるかもしれないが、ここで隠しては拙いだろうと感情を乗せることで魔術の威力が上昇することに気付き、説明する。掛け声を色々試した結果、散々嫌な思いをさせられていた幼馴染への罵声などが最も効果があるようだということが解かり、実技実習室は防音なので普通に罵声混じりで魔術を使っていたことを。
「実習室の使用に付き合ってくれた後輩もいるので」
証人も居るはずと俺は申し訳なく思いつつもプレスの名を出し、やって来たプレスもこれを肯定してくれた。
「しかし、魔術に感情を乗せるとは」
「あ、それ、先輩教わっていなかったらしいっすよ。当時は成績がアレだったので暴走することもないだろうと。そうっすよね、先輩?」
「あ、あぁ」
俺は話を振られて頷いたが、俺を呼び出した教師は目の前で何だとと叫んで立ち上がった。
「すまんが暫くここで待っていてくれ」
そう一言断りを入れて去ってゆき。
「何だったんだ?」
「たぶんすけど、先輩に感情のせての魔術が駄目と教えなかったのが大問題なんすよ。だから確認しに行ったんじゃないかと」
「あぁ」
しばらくして戻ってきた教師が、開口一番に済まんと頭を下げ、語った内容によって明らかになったのは、プレスの推測が当たっていたということ。俺を低学年の時教えていた教師が二人ほど叱責されたらしい。
「と言うことは、俺が剣聖座だっていうことも」
「は? お前は英雄座じゃなかったのか?」
伝わっていなかったのかと続けるまでもなかった。
「それはヨアニスが勘違いしてただけで、俺は何度も否定しました。あいつは一向に聞きませんでしたが」
一応相手は教師なので、ですます調にしつつ俺は説明する。クラスメイトには話した後であるし、隠すようなことでもないので、あの不愉快生物がした仕打ちを。
「……なる程、理解した。それなら、そんな罵声を掛け声にしていても、まぁ、教育上は注意しないといけないが、やられたことを鑑みるとな……ただ、今後もそれを続けることは許可できん」
「それは、まぁ、解かってます」
騒ぎを巻き起こしもしてしまったのだ。教師の指摘に俺は頷いた。
たぶん次話で最終回。




